脛骨骨幹部骨折に対するLateral parapatellar extracapsular approachの経験
増井文昭、斎藤雅人、伊藤吉賢、為貝秀明、石井文久、白旗敏克
千葉西総合病院整形外科・関節外科センター
はじめに
脛骨骨幹部骨折に対する髄内釘挿入は通常、膝関節を深屈曲し、挿入する方法が行われているが、整復操作時に再転位、変形性膝関節症で屈曲制限を認める症例では挿入が困難などの問題がある。近年、これらを解決するため上膝蓋アプローチが行われるようになってきたが、膝蓋大腿関節損傷、関節内デブリスなどが合併症としてあげられる。今回、著者らは外側傍膝蓋骨関節外アプローチによる手術を行い比較的良好な成績が得られたので報告する。
対 象
平成25年12月から26年2月までに当科で治療した脛骨骨幹部骨折症例4例である。性別は男性3例、女性1例、受傷時年齢38~75歳(平均年齢56歳)、骨折型分類は42A1 2例、A 3 1例、42C3 1例であった。
手術手技
- タニケット未使用
- 膝関節軽度屈曲位(骨折部の整復状態では伸展に)
- 皮切:外側関節裂隙から膝蓋骨外側縁
- 外側膝蓋支帯を切開、膝蓋腱および関節包の間を剥離、挿入部を露出して髄内釘を挿入
検討項目
平均手術時間、術後2週時の膝関節可動域、膝関節深部のanterior knee painについて行った。
症例1:52歳、女性
階段から転倒して受傷、同日、当科を受診した。レントゲンにて脛骨骨幹部骨折(図1)を認めたため同日入院、軟部組織の腫脹が強く、受傷2日目に創外固定術を施行した。受傷7日目、腫脹が軽快した上で観血的整復固定術(図2、3)を施行した。術後3週より部分荷重を開始し、術後3か月の現在、全荷重歩行中である。
症例2:38歳、男性
飲酒後、自転車にて走行中に転倒して受傷、同日、当科を受診した。レントゲンにて脛骨骨幹部骨折(図4)を認めたため同日入院、受傷5日目に観血的整復固定術(図5)を施行した。術後3週より部分荷重を開始し、術後8か月の現在、全荷重歩行中である。
結 果
手術時間80~135分(平均1時間40分)、術後2週時の膝関節可動域、屈曲角度110~145度(平均屈曲角度124度)、伸展角度0~-10度(平均-2.5度)であった。膝関節深部のanterior knee painは4例中1例(25%)に認め、髄内釘がやや突出している症例であった。
考 察
脛骨骨幹部骨折に対する髄内釘挿入は通常、膝関節を深屈曲し、膝蓋腱の内・外側あるいは膝蓋腱中央を縦割して関節内から挿入する方法が行われているが、正面・側面を確認する時に再転位、近位部骨折では膝蓋腱の牽引力により屈曲変形を生じる、術後の膝関節深部のanterior knee painや創部痛、変形性膝関節症で屈曲制限を認める症例では挿入が困難などの問題1)があげられる。
近年、脛骨近位端骨折では従来の手法では膝関節を深屈曲することにより膝蓋腱の牽引力で近位骨片が転位、整復位保持が困難なことから上膝蓋アプローチが行われるようになってきた1,2,3)。本手法は術中に患肢を動かさなくてよいため整復やイメージ操作がしやすいなどの利点があるが膝蓋大腿関節損傷、関節内血腫やデブリスの問題があり、これらを解決するために関節包外テクニック1,3,4,5)が報告されている。
著者らも上膝蓋アプローチを行った経験から、膝蓋大腿関節損傷、関節内血腫やデブリス、特に膝蓋大腿関節損傷の問題が思った以上に大きいと感じていた。近位部骨折では中枢骨片は外反し髄腔が外側に偏位し、さらに脛骨中心軸は外側にあることから外側傍膝蓋骨アプローチ(外側関節裂隙から膝蓋骨外側縁に皮切)が有用を考え、外側傍膝蓋骨関節内アプローチを行ってきた。同アプローチにて膝蓋大腿関節損傷を防ぐことは可能となったが関節内デブリス・血腫の問題が残されていた為、さらに関節包を切開しない外側傍膝蓋骨関節外アプローチに改良して手術を行った。本手法は膝関節拘縮症例にも使用可能で、膝蓋大腿関節損傷、関節内血腫およびデブリスの問題はなく、さらに膝関節深部のanterior knee painや創部痛も軽微であることから有用な手技と考えられた。
今回、手術時間はやや長い印象であったが、レジデントの執刀で上級医師が指導しながら行ったためと思われ、慣れた医師であれば1時間程度で手術が可能と思われた。
まとめ
1:脛骨骨幹部骨折に対してLateral parapatellar extracapsular approachにて髄内釘挿入を行った。
2:膝蓋大腿関節損傷、関節内血腫およびデブリスの問題はなく、有用な手技と考えられた。
参考文献
1)中原恵麻、小林雅人、上杉彩子ほか 骨折36: 134-136, 2014
2)Cole JD. Opinion: intramedullary nailing. J OrthopTrauma 20: 73-74, 2006
3)加瀬雅士、白澤進一 骨折34: 896-898, 2012
4)Erik NK. Benjamin JW. Dan SH et al. Extra-articular technique for semiextended tibial nailing . J Orthop Trauma. 24(11): 704-708, 2010
5)安田知弘、小原周、山崎謙ほか 骨折35: 951-95, 2013
図表説明
図1:術前レントゲン(a:正面、b:側面)
AO分類、42A3の骨折を認める
図2:術中写真
a:膝蓋腱外側から膝蓋骨外側縁に皮切を加える
b:骨孔を開けたあとにガイドピンを挿入する
c:末梢骨片に骨折を認めたため末梢関節面を骨把持鉗子で圧迫保持した上で、膝関節軽度屈曲位で髄内釘を挿入している
図3:術後レントゲン(a:正面、b:側面)
髄内釘で整復固定されている
図4:術前レントゲン(a:正面、b:側面)
AO分類、42A1の骨折を認める
図5:術後レントゲン(a:正面、b:側面)
ブロッキングピンを挿入して髄内釘で整復固定されている