大腿骨転子下骨折(Seinsheimer & Bergman分類Kyle typeⅢ)に対するγtype long femoral nailとplate併用の小経験
増井文昭、斎藤雅人、石井文久、中野信宏、浅沼和生、白旗敏克
千葉西総合病院整形外科・関節外科センターFumiaki Masui(整形外科部長、関節外科センター長)、Masato Saitoh、Yoshitaka Itoh、Nobuhiro Nakano、Kazuo Asanuma(関節外科センター腫瘍外科顧問)、Tosikatsu Shirahata(整形外科部長、関節外科センター統括顧問)
はじめに
大腿骨転子下骨折は剪断・圧迫・伸張・回旋負荷が加わるため、術後合併症の頻度が高く治療が難しい骨折である。特に外側壁破綻による伸張・剪断不安定性が強いSeinsheimer & Bergman分類typeⅤ、Kyle typeⅢは治療に難渋することが多い。今回、合併症を軽減させる目的でSeinsheimer & Bergman分類Kyle typeⅢ 2症例に対してγtype long femoral nailとplateを併用した術式を施行したので報告する。
手術方法
- Guide wireを大転子頂部から挿入する。
- Reamingを行った後にlag screw刺入部より近位・遠位を展開する。
- 近位と遠位骨片の骨性コンタクトを確認しながら、γtype long femoral nailを挿入し、固定する。
- 大転子を含めた外側壁の骨折状態を確認しながらtension band/buttress効果が得られる位置にplateを設置し、wire、locking screwで固定する
症例1
44歳 男性
現病歴
バイク走行中に車と接触して転倒受傷、当院に入院となった。初診時、単純X線像で左大腿骨転子下骨折(Seinsheimer & Bergman分類 KyleⅢ)(図1)、右脛骨近位端骨折(AO分類43C3)、上腕骨近位端骨折(AO分類11B1)、高度の貧血(Hb6.6g/dl)を認めた。大腿骨転子下骨折に対して創外固定術を施行し、全身状態が安定した1週間後に観血的整復固定術を施行した(手術時間2時間30分、全手術時間5時間30分)。術後2日より可動域訓練、術後3週より1/3荷重、5週全荷重歩行訓練を行った。術後1年の現在、ワイヤー締結部の骨吸収を認めず、骨癒合が得られている(図2)。また、plate固定部の突出、痛みは認めていない。
症例2
68歳 男性
現病歴
転倒受傷し、単純X線像で左大腿骨転子下骨折(Seinsheimer & Bergman分類 KyleⅢ)(図3)を認めた。観血的整復固定術を施行、術後2日目より全荷重歩行を開始し、術後7か月の現在、ワイヤー締結部の骨吸収を認めず、骨癒合が得られている(図4)。また、plate固定部の突出、痛みは認めていない。
考 察
大腿骨転子下骨折は強い剪断・圧迫・伸張・回旋負荷が加わるため、術後合併症の頻度が高く治療に難渋する骨折である。内側に圧迫力、外側に伸張・剪断力が加わることにより内反変形・偽関節・内固定材折損、screwのtelescopeなどが合併症として挙げられる3,4)。
特にSeinsheimer & Bergman分類typeⅤ/ KyleⅢは内・外側壁の骨折により内側に圧迫、外側に張力負荷が加わり、femoral nail近位部を支持する大転子を含めた外側壁に骨折を認める不安定性が高い骨折型で、偽関節、再転位、変形癒合などの合併症の頻度が高く治療に難渋する。使用する内固定材としてstandard type long femoral nail、γtype long femoral nail、dynamic hip screwがある。荷重伝達の観点からはstandard type long femoral nail、γtype long femoral nailがdynamic hip screwより優れているが、大転子の固定が出来ない、buttress効果が少ないなどの欠点がある。Dynamic hip screwは長いものをbuttress plateとして用い、medial supportを再建することで良好な固定性が得られる。さらに、大転子骨折を認める際はtrochanteric stabilizing plateで整復固定することで中殿筋機能不全を予防できる利点があるが5,6)、大きく展開する必要がある、long femoral nailより荷重伝達の点で不利などの欠点がある。Long femoral nail はcentral loading効果があるが、大転子を含めた外側壁の固定が出来ないためbuttress効果が少なく、剪断負荷に弱い欠点がある。特に、内・外側壁と大転子に骨折を認める不安定性が高いSeinsheimer & Bergman分類Kyle typeⅢは内反変形・偽関節・内固定材折損などのriskが高く、我々はrisk を軽減させるためγtype long femoral nailとplateを併用した術式を2症例に対して行い、骨癒合が得られた。Seinsheimer & Bergman分類KyleⅢは骨折部が近位screw holeに近く強い伸張・剪断負荷が加わるため、standard type long femoral nailより近位径が太いγtype long femoral nailが強度的に優れている。また、γtype long femoral nailは末梢径がstandard type long femoral nailより細いため、最も太い機種を選択した方が良いと考える。Platingを施行する際は、骨折状態、伸張・剪断方向を評価した上でplateを選択し、十分なtension band/buttress効果が得られる位置に設置することが重要で、wire締結に際しては骨組織への血流を阻害しないよう2本以上使用しないなどの配慮が必要と思われた。
また、大転子・外側壁の固定には、Synthes社製olecranon LCPが大転子頂部にフックがかかる、tension band/buttress効果を持たせたい所に設置ができる(左右でplateの彎曲が異なる)、locking screw/wireと併用できる、low profileで突出がない、などの理由から有用であった。本術式は比較的簡便で固定性も良好なことから、外側壁破綻による伸張・剪断不安定性が強いSeinsheimer & Bergman分類Kyle typeⅢに対して有用な術式と考えられた。
まとめ
1:内・外側壁と大転子に骨折を認める不安定性が高いSeinsheimer & Bergman分類Kyle typeⅢにγtype long femoral nailと plateを併用する術式は有用と思われた。
2:Platingを施行する際は、骨折状態、伸張・剪断方向を評価した上でplateを選択し、十分なtension band/buttress効果が得られる位置に設置することが重要である。
参考文献
1)Seinsheimer F.: Subtrochanteric fracture of the femur.
J Bone and Joint Surg AM 60: 300-306, 1978
2)Bergman G, Winquist R, Mayo K et al. Subtrochanteric fracture of the femur.
J Bone and Joint Surg AM 69: 1032-1040, 1987
3)池田昌樹、池田祐一、浜脇純一:大腿骨転子下骨折における髄内釘を用いた治療法の検討
骨折36: 932-936, 2014
4)伴光正、松村福広、星野雄一:大腿骨転子下骨折の治療成績
骨折34: 315-318, 2012
5)岡崎良紀、佐藤徹、塩田直史ほか:後外側骨片を有した大腿骨転子部骨折に対するtrochanteric Stabilizing Plateの使用経験
骨折36: 85-89, 2014
6)高橋憲正、田中正、豊根知明ほか:大腿骨転子部骨折におけるTrochanteric Stabilizing Plateの使用経験
骨折22:118-122, 2000
7)中野哲雄:高齢者大腿骨転子部骨折の理解と3D-CT分類の提案
MB Orthop19: 39-45, 2006
図表説明
図1:初診時単純X線像
左大腿骨転子下骨折(Seinsheimer & Bergman分類 KyleⅢ)を認める。
図2:術後12か月時単純X線像
γtype long femoral nailとplateによる固定を施行し、骨癒合が得られている。
図3:初診時3DCT
左大腿骨転子下骨折(Seinsheimer & Bergman分類 KyleⅢ)を認める。
図4:術後7か月時単純X線像
γtype long femoral nailとplateによる固定を施行し、骨癒合が得られている。