整形外科

介護骨折の治療 – 上腕骨骨幹部骨折および大腿骨骨幹部/骨端部骨折を中心に –

増井文昭、斎藤雅人、佐藤健二*、伊藤吉賢、白旗敏克、阿部哲士*
千葉西総合病院整形外科・関節外科センター、*帝京大学整形外科

はじめに

介護事故とはおむつ交換などの介護サービスを行っている際に発生した事故のことをいう。高齢化にともない要支援・要介護者は増加の一途をたどっており、今後さらに、介護に関連した骨折(以下、介護骨折)も増加するものと考える。介護骨折患者は栄養状態、軟部組織の損傷状態、骨質、骨量、骨欠損、全身的合併症などが異なるため、治療方法の選択に難渋することが少なくない。今回、当科で治療した介護骨折から上腕骨骨幹部骨折(以下、上腕骨骨折)および大腿骨骨幹部・骨端部骨折(以下、大腿骨骨折)について検討した。

対 象

平成21年1月から26年5月までに当科で治療した介護骨折症例のうち、施設入所あるいは入院中の介護に関連した上腕骨骨折2例と大腿骨骨折14例である。性別は男性2例、女性14例、受傷時年齢は69~97歳(平均86歳)であった。

方 法

介護度分類、受傷機転、骨折型分類(AO分類)、治療方法、入院から手術までの待機期間、手術時間、出血量、手術方法と内固定材、人工骨充填術・短縮術の併用、退院時ADL、転帰について検討した。

結 果

介護度は要介護1が3例、要介護2が2例、要介護4が2例、要介護5が9例であった。受傷機転は転倒が5例、転落が3例、おむつ介助が1例、不明が7例であった。転倒は要介護1、2までの介護度が軽度の高齢者に、転落、おむつ介助は要介護4、5と介護度が重度の高齢者に発生していた。受傷機転が不明な症例は発見までの時間が長いこともあって、軟部組織の状態が不良であった。骨折型はAO分類で12A1が1例、12C2が1例、32A1が3例、32A2が3例、32A3が1例、33A1が1例、33A2が2例、33A3が2例、33B1が1例であった。

保存療法は上腕骨骨折と大腿骨骨折の各2例に施行した。上腕骨骨折の1例(12A1)で骨癒合が得られたが、もう1例(12C2)では偽関節となった。2例とも除痛は得られADLに大きな支障は認めなかった。大腿骨骨折の1例では患者家族の拒否により保存療法を行ったが、骨折部の短縮・転位による骨折近位断端Spike部の突出による皮膚トラブルを認めた。もう1例は全身的合併症により手術が出来なかった症例で、入院9日目に誤嚥性肺炎で死亡した。

手術治療は大腿骨骨折12例に施行した。入院から手術までの待機期間1~25日(平均7日)、手術時間32分~2時間30分(平均77分)、出血量40~400ml(平均162ml)であった。内固定材はRetrograde髄内釘が5例、Locking compression plate(以下、LCP) single platingが3例、LCP double platingが4例であった。Retrograde髄内釘はAO32とAO33のうち末梢骨片にスクリューが2本以上挿入され十分な固定が得られる症例に対して、外側LCPはAO33のうちRetrograde髄内釘で末梢骨片の十分な固定が得られない症例に使用した。さらに術中イメージ下のストレス撮影で内側に不安定性がみられた4例では内側からのLCP固定を追加した。大腿骨骨幹端部骨折で著しい骨粗鬆症と骨欠損を認める症例に対しては短縮術を2例、人工骨(α-TCP)充填術を1例に施行した。

要介護1、2の5例全例が退院時までに車いす以上のADLを獲得していた。また、手術症例では全例で除痛、ADLの改善が得られていた。要介護4、5の11例中5例が入院中に死亡した。死亡原因は誤嚥性肺炎2例、脳梗塞2例、心不全1例で、いずれも手術との直接的な関連は認めなかった。

症例1 88歳、女性(要介護5、関節拘縮あり)

介護中に上腕部の腫脹、変形に気付き、当科を受診した。単純レントゲンにて上腕骨骨折を認めたため(図1(a),(b))、ギプスシーネ固定(前方:上腕部、後方:肩峰~手関節)を行った。ギプスシーネ固定5週目には仮骨形成がみられ(図2(a),(b))、軽度短縮転位があるものの骨癒合が得られた。

症例2 84歳、女性(要介護4)

介護中に大腿部の腫脹、変形に気付き、当科を受診した。単純レントゲンにて大腿骨骨幹部骨折を認め(図3 (a),(b))、入院6日目に観血的整復固定術(手術時間75分、出血量98ml)を行った。著しい骨粗鬆症、大きな骨欠損と短縮、骨皮質の菲薄化がみられたため、骨折部を短縮させLCPにて固定した(図4 (a),(b))。イメージ下のストレス撮影で内側の軽度不安定性がみられたため、術後はニーブレース固定とした。リハビリを順調に行っていたが、脳梗塞を発症して死亡した。

症例3 94歳、女性(要介護2)

歩行中に転倒受傷し、当科を受診した。単純レントゲンにて大腿骨骨折がみられたため(図5 (a),(b))、入院4日目に観血的整復固定術(手術時間60分、出血量400ml)を行った。著しい骨粗鬆症、大きな骨欠損と短縮、骨皮質の菲薄化がみられたため、骨折部を短縮させ外側からLCPにて固定した。術中イメージ下のストレス撮影で内側に不安定性がみられたため、内側からのLCP固定を追加した(図6(a),(b))。術後3週で車椅子にて退院となった。

考 察

人口の高齢化にともない要支援・要介護の高齢者は増え、要介護1(立ち上がり、歩行、排せつや食事で見守りや手助けが必要)から要介護5(日常生活を営む機能が著しく低下し、全面的な介助が必要)の骨折患者がさらに増加してくるものと考える。要介護4、5患者の介護骨折の多くはおむつ交換時、更衣介助中、体位交換中、歩行介助中などに慎重さや丁寧さを欠いたことから起こることが多い。原因は介護従事者の骨折発生機序に対する理解が乏しいことに加えて、介護従事者の過重業務などの背景がある。介護事故は本来起こってはならないことではあるが、過剰に問題視することは介護従事者の萎縮にもつながるため、彼らの意欲を失わないような配慮も必要と考える。さらに起こりやすい骨折パターンや関節の動き、介護患者に特有な栄養不良状態、骨粗鬆症、全身的合併症などの患者情報を患者家族および介護従事者がよく認識することに加えて1)、医療介護環境の抜本的構造改革が望まれる。

転倒事故は歩行・立位が可能な要介護3までの高齢者のうち、特に要支援1〜要介護1までの介護度が軽度の高齢者に発生していた。これらの症例は受傷直前まで歩行ができているため、骨量・骨質や栄養状態は比較的良好で骨欠損は少ないことが多かった。一方、転落事故は歩行・立位が困難または不可能な介護度4、5の介護度が重度の高齢者に発生し、疼痛・腫脹・皮下出血・変形などで発見されることも多かった。また、栄養不良、薄い皮膚、著しい骨粗鬆症、著しい患肢の腫脹、軟部組織状態の不良、著しい骨欠損・短縮・転位、重篤な全身的合併症などがみられたため、治療法の選択にしばしば難渋した。

保存療法としては、牽引療法、ギプス固定、装具固定などが挙げられる。上腕骨骨折では患肢の重みによる牽引である程度整復されるため、ギプスや装具による保存療法で骨癒合が得られる場合が多く有用と思われた。一方、大腿骨骨折では、整復がしにくい、短縮転位をきたしやすい、皮膚が薄いためSpikeを有する骨折では皮膚穿破の危険が高い、仮骨がでるまでは単純X線撮影を頻回にとる必要がある、完全な除痛が得られない、体動が制限されるため褥瘡や肺炎などを起こしやすいなどの問題が挙げられ、その間の医療従事者の精神・身体的負担は莫大となる3、5)

大腿骨骨折の治療目標は介護度や全身状態によって異なる。要介護3までの症例では、直前まで歩行が出来ていたことから栄養不良や骨量低下・骨質不良がない場合が多く、早期に強固な内固定を行い受傷前の状態に戻すことが最も重要である。一方、要介護4、5の症例では、前述したような全身的・局所的な問題があり、早期に介護が安全に行える状態にすることである2,3、6)。今回の検討では全例、手術により除痛、ADLの改善が得られており、術前から高カロリー食、輸血、アルブミン投与などによる全身状態の改善や合併症の治療を行い、早期に個々の症例に応じた短時間で強固な固定を行うことが重要と考えられた6)

手術療法に用いられる内固定材としては、Retrograde髄内釘、LCP、キルシュナー鋼線、創外固定などが挙げられる。キルシュナー鋼線、創外固定は全身状態が不良な症例に緊急処置として行われるが、感染や緩みの問題があるため1~2週間以内に髄内釘やプレートによる内固定が必要である。Retrograde髄内釘は骨量低下・骨質不良がない大腿骨骨幹部・骨幹端部骨折、皮膚が薄い症例に第一選択となる。一方、骨量低下・骨質不良を認める大腿骨骨折ではRetrograde髄内釘では十分な固定性が得られないことがあり、LCPが有用である。その際、LCPは皮膚に突出するため、皮膚が薄い症例では皮膚穿破に注意する必要がある。また、症例3のような要介護4、5の介護度重度の症例は骨皮質が“紙”のように薄く、LCP1本では十分な固定性が得られない場合があり、骨折部を短縮陥入させて骨欠損をなくすような対応が必要である。以上の処置で骨折部の不安定性が残存する際は、骨皮質が薄いことに加えて末梢骨片内の海綿骨の欠損によりスクリューの固定性が低いことが考えられ、LCPのdouble plating、骨移植術、人工骨(α-TCPなど)充填術が有用である。さらに、全身および局所状態がさらに不良な症例に対しては一期的な切断も選択肢と考える4)

治療法の選択にあたってはメリットとデメリットを総合的に判断することが重要である。今回の検討では、直接的な手術との関連性は認めなかったものの、5例の死亡例がみられた。全例、合併症を有する要介護4、5の症例で、手術を施行することにより除痛が得られ、術後の介護が容易となった。手術にあたっては、誤嚥性肺炎、脳梗塞、心不全などの内科的合併症に十分配慮し、患者・家族に十分な説明の上で同意が得られれば積極的に検討することも重要と考える。

まとめ

1:介護骨折の予防と治療にあたっては、起こり易い骨折パターン、栄養状態、骨粗鬆症あるいは全身的合併症などの患者情報を家族、介護従事者に認識してもらうことが重要である。

2:Retrograde髄内釘が第一選択であるが、末梢骨片にスクリューが2本以上挿入されない、骨量低下や骨質不良のみられる症例ではLCPsingle platingが有用である。LCPsingle platingで内側に不安定性を認める症例では、骨折部の短縮、LCPのdouble plating、骨移植術、人工骨(α-TCPなど)充填術を検討すべきである。

3:介護骨折の治療選択にあたっては、そのメリットとデメリットを総合的に判断する事が重要である。特に大腿骨骨折では充分な検討と対策を行った上で家族の同意が得られれば積極的に手術を検討すべきと考える。

参考文献

1)高齢者骨折のリスク管理
石沢充
理学療法 2011;28:907-914
2)高齢者大腿骨遠位部骨折治療の問題点
市村和徳
骨折2006;28:501-504
3)施設介護患者の大腿骨遠位部骨折の治療
市村和徳
骨折2009;31:402-404
4)高齢者大腿骨遠位端骨折に対する切断術による治療
岩本良太、尾上英俊、木村一雄、村岡邦秀、今村尚裕、三宅智、市村和徳
骨折2012;34:352-354
5)寝たきり患者における「介護骨折」
柏倉剛、木村善明、櫻場乾、宮腰尚久、野坂光司、島田洋一
整形・災害外科2013;56:189-193
6)高齢者大腿骨遠位部骨折の治療経験
鎭西伸顕、野村智洋、藤井正道、半仁田勉、林和生
整形外科と災害外科2007;56:462-465

図表説明

図1:単純レントゲン像(AO分類12A3、a:正面、b:側面)
骨折部の短縮・側方転位が認められた。
図2:ギプスシーネ固定5週時単純レントゲン像(a:正面、b:側面)
軽度短縮転位があるものの良好な仮骨形成が認められた。
図3:初診時単純レントゲン像(AO分類32A2、a:正面、b:側面)
著しい骨粗鬆症と骨皮質菲薄化と骨折部の短縮陥入が認められた。
図4:術後単純レントゲン像(a:正面、b:側面)
骨折部の短縮陥入させた状態で外側からLCPにて固定した。骨欠損と骨皮質菲薄化を認め、Locking screwを骨折部から距離を離してbicorticalで挿入固定した。
図5:初診時単純レントゲン像(AO分類33A2、a:正面、b:側面)
著しい骨粗鬆症と骨皮質菲薄化と骨折部の短縮陥入が認められた。
図6:術後単純レントゲン像(a:正面、b:側面)
骨折部の短縮陥入させた状態で外側からLCPにて固定した。骨欠損と骨皮質菲薄化を認め、Locking screwを骨折部から距離を離してbicorticalで挿入固定した。

図1(a)
図1(b)
図2(a)
図2(b)
図3(a)
図3(b)
図4(a)
図4(b)
図5(a)
図5(b)
図6(a)
図6(b)