MICS、ロボット手術における人工心肺装置
人工心肺装置とは
心臓や大動脈の手術では、心臓と肺の働きを止めて手術を行う場合があります。しかし、心臓と肺は、生命を維持するために必要な機能を担っているため、手術中はそれらの機能を代行しなければなりません。そこで人工心肺装置と呼ばれる、生命維持管理装置が必要になります。
人工心肺装置は、心臓と肺の機能を代行するだけでなく、体温調節や循環血液量の調節など様々な役割を担っています。当院では、手術中における人工心肺装置の操作や管理は、臨床工学技士(CE:Clinical Engineer)が行っています。
胸骨正中切開手術とMICS
当院では人工心肺装置を使った手術を、年間約400例行っています。心臓や大動脈の手術など幅広い疾患に対する手術を行っていますが、特に心臓手術では、MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery)と呼ばれる低侵襲心臓手術を積極的に行っています。従来の心臓手術では、胸の真ん中にある胸骨を大きく切開(胸骨正中切開)して手術を行っていました。しかし、MICSでは胸骨を切開することなく、4-5cm程度の傷で手術を行うことができます。
MICSにおける人工心肺
胸骨正中切開症例では、胸骨を大きく開け、カニューレと呼ばれる管を、上行大動脈と右房(または上大静脈と下大静脈)に挿入し、人工心肺装置と接続して手術を行います。
一方、MICSではカニューレの挿入に大腿動脈(または右腋窩動脈)と大腿静脈を使用するため、挿入のための傷は足の付け根(または右肩)3cm程度となります。また、胸骨を切開しないため、胸の傷も小さくすみ、身体への負担がとても軽くなります。
より低侵襲な半閉鎖型人工心肺回路
さらに当院臨床工学科の取り組みとして、MICS AVR(MICSで行う大動脈弁置換術)において「半閉鎖型回路」を使用しています。この回路を使用することで、通常の人工心肺回路(開放型回路)よりも、さらに低侵襲な心臓手術が行えるようになります。
開放型回路
半閉鎖型回路(より低侵襲)
半閉鎖型回路を使用すると、
- 手術における出血や輸血の必要性が減少する
- 静脈リザーバー(一時的に血液を貯める場所)を通る血液量が少なくなるため、炎症反応が抑制される
- 術後の心房細動の発生率が減少する
などと、言われています。
当院の研究結果においても、半閉鎖型回路を使用した症例では、開放型回路を使用した症例より血液希釈率と輸血率が有意に低く、挿管時間が短いという結果が出ています。このように当センターでは、人工心肺装置を通じてより低侵襲な心臓手術が行えるように心がけています。