踵骨裂離骨折と両果骨折、脛骨天蓋部骨折の合併損傷Avulsion fracture of the calcaneus accompanied with bilateral malleolus fracture and plafond fracture:A case report
踵骨裂離骨折と両果骨折、脛骨天蓋部骨折の合併損傷
Avulsion fracture of the calcaneus accompanied with bilateral malleolus fracture and plafond fracture:A case report.
骨折治療学会雑誌掲載論文原文
齊藤雅人、増井文昭、伊藤吉賢、白旗敏克、佐藤健二*、阿部哲士*
千葉西総合病院整形外科・関節外科センター、*帝京大学整形外科
要旨
踵骨アキレス腱付着部裂離骨折は踵骨骨折の中でも比較的稀な骨折であり、足関節果部骨折と天蓋骨折の合併損傷例は極めて稀な症例と考えられた。受傷機序については直達外力あるいは下腿三頭筋の牽引力などが報告されており、発生素因については骨脆弱性や糖尿病性末梢神経障害によるNeuropathic fracture、アキレス腱の高位付着などが報告されている。本骨折に対する内固定材は、キルシュナー鋼線と軟鋼線(tension band wiring法)、キャンセラススクリュー(ワッシャー使用)、suture anchor、Locking Compression Plate(LCP)、補助固定材として軟鋼線、人工靭帯などの報告があるが確立された治療法は無い。本症例はスパイクワッシャー付きキャンセラススクリューによる固定を施行し、Leeds-Keio人工靭帯による補助固定を施行した。術後30週のAOFASスコアで82点(good:90-80)と良好な成績を得られた。本手術法は有効な治療の一つであると考える。
はじめに
高齢者の踵骨裂離骨折、果部骨折と脛骨天蓋部骨折の合併損傷に対して、人工靭帯やMinimally Invasive plate osteosynthesis (MIPO)法を用いて低侵襲かつ強固な固定を行った症例を経験した。軟部組織合併症を生じることなく、早期から可動域訓練を開始することにより良好な術後成績が得られたので報告する。
症例
65歳女性、既往歴に特記すべき事はない。自宅の階段を昇っている際に左足を踏み外し、転倒受傷した。同日に近医を受診し、3日後に当科を受診した。
身体所見
初診時、足関節周囲に著しい腫脹と水疱形成を認め、Thompson testは陽性だった。単純X線(図1)とCT(図2)では、足関節内外果骨折(AO分類44-B3、Lauge-Hansen分類pronation-adduction(PA)型StageⅢ)、脛骨天蓋部陥没骨折(AO分類43-B2)、踵骨裂離骨折(Beavis分類typeⅠ)を認めた。
検査所見
C反応性蛋白が1.44mg/dl、骨型アルカリフォスファターゼが28.6μg/l、Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチドが33.2nMBCE/l、骨密度はYoung Adult Meanで腰椎が70%、大腿骨が63%と軽度の炎症と骨粗鬆症を認めた。
手術
足関節果部、脛骨天蓋部骨折、踵骨アキレス腱付着部裂離骨折の整復固定が必要であり、腫脹と水疱の軽快を待ち、受傷から12日後に手術(腹臥位にて一期的に)を行った。軟部組織への侵襲軽減のため、内果骨折に対して経皮的にBiomet社製4.5mm cannulated cancellus screw(CCS)2本を挿入、外果骨折はMinimally invasive plate osteosynthesis(MIPO法)に準じSynthes社製1/3円プレートにて固定した。次にアキレス腱後外側に径10cm程の縦皮切を加え、脛骨後面を露出した後に関節面より3cm近位側を1×2cm程開窓した(図3)。イメージ下に脛骨天蓋部関節面を整復し、Olympus社製人工骨オスフェリオンを骨欠損部に充填、Biomet社製4.5mm CCS2本を用いrafting法にて固定した。踵骨アキレス腱付着部裂離骨折は、裂離骨片を4.5mmスパイクワッシャー付きキャンセラススクリューで固定(図4)し、さらにLeeds-Keio人工靭帯をアキレス腱に縫合、踵骨に開けた骨孔に通して補強した(図5)。
後療法
30度底屈位で下腿足尖ギプス固定を2週間施行後、可動域訓練を開始した。4週より部分荷重、6週で全荷重を行った。術後30週の現在、可動域は底屈50°、背屈5°、補助具無く全荷重歩行中、AOFAS scoreは82点で経過良好である。
考察
踵骨アキレス腱付着部裂離骨折は踵骨骨折の中でも比較的稀な骨折で全踵骨骨折の約3%程度1)に発生する。Beavis分類2)が頻用され、本症例は骨脆弱性が関与するtypeⅠ(sleeve fracture)、足関節果部骨折はAO分類44-B3、Lauge-Hansen分類でPA型StageⅢであった。踵骨アキレス腱付着部裂離骨折、足関節果部骨折と天蓋骨折の合併損傷例は渉猟した範囲で報告は無く、本症例は極めて稀な症例と考えられた。
踵骨アキレス腱付着部裂離骨折の受傷機序については直達外力あるいは下腿三頭筋の牽引力など1)3)4)5)6)が報告されている。本症例は階段を昇っている際に足尖部が階段に引っかかる形で踏み外して足関節が過背屈位となり、さらに下腿三頭筋の強い牽引力により生じたものと思われた。その後、接地により脛骨遠位端関節面に強い軸圧が加わったため脛骨天蓋部骨折を生じ、また、内果に裂離骨折があること、外果に脛腓靭帯より近位で外側に底辺を有する三角骨片を認めることから、転倒時に足関節が回内-外転位となることにより足関節果部骨折も合併したと推察された。
踵骨裂離骨折の発生素因については骨粗鬆症、肝機能障害、糖尿病、慢性腎不全などによる骨脆弱性や糖尿病性末梢神経障害によるNeuropathic fracture、アキレス腱の高位付着などの素因3)4)が報告されている。本症例はⅠ型コラーゲン架橋N-テロペプチドが35.5nMBCE/l、Young Adult Meanが腰椎で70%、大腿骨で63%であったことから、骨の脆弱性を背景に下腿三頭筋の牽引力により生じたものと考えられた。
本骨折(踵骨裂離骨折Beavis分類typeⅠ)の治療上の問題点として骨脆弱性、軟部組織損傷・皮膚壊死、関節拘縮が挙げられ、踵骨脆弱性裂離骨折に対する内固定材は、キルシュナー鋼線と軟鋼線(tension band wiring法)6)、キャンセラススクリュー3)4)5)(ワッシャー使用)、suture anchor2)6)、Locking Compression Plate(LCP)1)、補助固定材として軟鋼線6)、人工靭帯4)7)などの報告があるが確立された治療法は無い。本症例は骨片のスクリュー穿破の危険性を回避するためにスパイクワッシャー付きキャンセラススクリューによる固定を施行した。さらに、骨片が薄く骨質不良を認めたため、スクリューのバックアウト・補助固定材による骨孔のチーズカットの危険性回避、早期可動域・荷重歩行訓練開始のためにLeeds-Keio人工靭帯による補助固定を施行した。Leeds-Keio人工靭帯は最大引っ張り強度は2350Nと報告されており、歩行時にアキレス腱にかかる牽引力の1900Nを超えているため、特に骨質不良を認める際に併用することで早期運動療法が可能となり有用と考えられた8)9)10)。また、皮膚壊死・軟部組織損傷は最も重大な合併症の一つであるが、本症例はロープロファイルな内固定材を選択し、極力皮下の剥離をせずパラテノンも一塊にして骨折部の展開を行うなど愛護的な手技で手術を行ったことが有効だったと考えられた。
術後30週のAOFASスコアは82点で、減点項目には後足部可動域制限が多く関与していた。疼痛や軟部組織合併症を懸念して2週間の外固定を行ったことと関節内骨折による関節拘縮が原因と思われ、強固な固定を得られている際は、より早期に可動域訓練を開始することで、さらに術後機能が改善するものと考えられた。
参考文献
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- Gregpr RJ et al:Achilles tendon forces during cycling.Int J Sports Med:1987.
図表説明
図1:正面像で、AO分類44-B3の内外果の骨折、脛骨天蓋部の陥没骨折を認め、側面像で踵骨裂離骨折を認めた。
図2:冠状断で脛骨天蓋部の陥没骨折(step off 5mm)、矢状断で踵骨裂離骨折(Beavis分類typeⅠ)を認めた。
図3:踵骨アキレス腱付着部中枢骨片(▲)と脛骨後面開窓部(△)
図4:Leeds-Keio人工靭帯による補助固定。アキレス腱を貫通させ、踵骨に開けた骨孔を通し8の字となるように固定した。
図5:脛骨内果はキャンセラススクリュー2本、腓骨外果は1/3円プレートを用い、脛骨天蓋部は骨欠損部にオスフェリオンを充填し、キャンセラススクリュー2本を用いrafting法で固定した。踵骨裂離骨片はスパイクワッシャー付きキャンセラススクリューを用い、Leeds-Keio人工靭帯にて補助固定した。