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大腿骨単顆骨折の治療経験

大腿骨単顆骨折の治療経験:骨折治療学会雑誌掲載論文原文

齊藤雅人、尾立和彦、伊藤吉賢、増井文昭、黒住健人

要旨

当科では大腿骨単顆骨折(AO分類33-B)に対し、症例に応じてantiglide plate(以下、AP)とlocking plate(以下、LP)を組み合わせて治療を行っており、その選択法と治療成績について報告する。対象は2015年1月から2017年12月までに当科で手術を行った大腿骨単顆骨折6例のうち、術後6ヶ月以上経過観察可能であった4例であった。骨折型はB1:2例、B2:1例、B3:1例、治療は全例に観血的整復固定術を施行、垂直型骨折の2例に対してAPとLP、非垂直型骨折の2例に対してLPによる固定を行い、術後早期に可動域訓練を開始した。評価項目は固定方法、骨癒合、膝関節最終可動域、術後合併症、femoro-tibial angle(FTA)、JOA scoreとした。全例で骨癒合が得られ、術後合併症(創傷治癒遅延、感染、変形癒合、疼痛残存、深部静脈血栓症)を認めず、膝関節最終可動域、FTA、JOA scoreはいずれも良好な成績が得られた。大腿骨単顆骨折の手術において、APとLPを組み合わせる方針は有用であると考えられた。

はじめに

大腿骨単顆骨折(AO分類33-B)の手術において、螺子単独では固定が不十分となり変形癒合1)や偽関節2)を生じたとする報告が散見される。我々は症例に応じてAPとLPを組み合わせて治療を行っており、その選択法と治療成績について報告する。

対象および方法

対象は2015年1月から2017年12月までに当科で手術を行った大腿骨単顆骨折6例のうち、術後6ヶ月以上経過観察可能であった4例。術後平均経過観察期間は13.4ヵ月(6.5~24.6ヵ月)であった。骨折型はB1:2例、B2:1例、B3:1例、治療は全例に観血的整復固定術を施行、荷重面に対し60°程度以上垂直方向に骨折線を有する垂直型骨折の2例に対してはAPとLP、非垂直型骨折の2例に対してはLPによる固定を行い、術後早期に可動域訓練を開始した。評価項目は固定方法、骨癒合、術後合併症(創傷治癒遅延、感染、変形癒合、疼痛残存、深部静脈血栓症)、膝関節最終可動域、femoro-tibial angle(FTA)、JOA scoreとした。

結果

全例で骨癒合が得られ、術後合併症を認めなかった。膝関節最終可動域は屈曲が平均121°(健側平均133°)、伸展が平均-4°(健側平均-3°)、FTAは平均177°(健側平均178°)、JOA scoreは平均79点(健側平均83点)であった(表1)。

症例

症例1

77歳、女性。既往に右大腿骨転子部骨折、右橈骨遠位端骨折、糖尿病があり、骨粗鬆症に対し当科にて加療中であった。自宅のベランダで転倒受傷して当科受診。画像所見よりAO分類33-B1と判断した(図1,2)。手術は、垂直型の単純骨折であるため、APを用いたのち、LPでの固定を追加した(図3)。術翌日より可動域訓練を開始し、術後10ヵ月の時点で骨癒合は得られ(図4)、膝関節屈曲120°(健側130°)可能となり、JOA scoreは70点(健側75点)であった。

症例2

34歳、男性。既往に特記すべき事項なし。スノーボードで高さ3メートルの高さからジャンプし、着雪の際に右下肢に軸圧がかかり受傷した。翌日当科を受診し、画像所見よりAO分類33-B3と判断した(図5.6)。手術は、関節内に中間骨片を有する垂直型骨折であったため、まず中間骨片が割れないように吸収ピンで固定し、これをさらに前方骨片と吸収ピンで固定した。次に後方骨片を整復して後外側にAPを設置し、さらに外側より中間骨片と後方骨片を捉えるようにLPでの固定を追加した(図7)。術翌日より可動域訓練を開始し、術後1年の時点で骨癒合は得られ(図8)、膝関節屈曲150°(健側160°)可能となり、JOA scoreは95点(健側100点)であった。

考察

大腿骨単顆骨折に対する内固定法として、一般的には螺子による固定が選択される1)~4)。単純骨折で転位が少なく、骨質が良好であれば、螺子単独での経皮的整復固定も可能である。しかし、粉砕骨折の場合や骨質が不良な場合、骨折線が垂直方向に存在し剪断力がかかりやすい場合は、螺子単独では固定が不十分となり変形癒合1)や偽関節2)を生じたとする報告が散見される。垂直型の骨折ではAPを使用することで、粉砕骨折や骨質不良例でも骨片間の剪断力に対する十分な固定力が得られ、骨片間に圧迫を加えることが可能であると報告されている5)6)。これらをふまえ、当科では33-Bの骨折に対しAPとLPを組み合わせる方針で手術を行った。垂直型骨折では必ずAPによる固定を行い、LPを追加固定とした。また、非垂直型骨折ではLPによる固定を行った(図9)。どちらも術後は早期に可動域訓練を開始し良好な成績を得ることが出来た。この手術法は有用であると考える。

まとめ

大腿骨単顆骨折4例に対し、APとLPを組み合わせる方針で良好な成績が得られた。この手術法は有用であると考える。

参考文献

嶌村将志、大江啓介、櫻井敦志ほか.当科における大腿骨遠位単顆骨折の治療成績.骨折 2016;38(2):426-428.

安部幸雄、富永康弘、屋良貴宏ほか.大腿骨内顆冠状骨折偽関節に対する血管柄付き腸骨移植術の一例.骨折 2012;34(1):127-130.

柴田常博、安倍吉則、田代尚久ほか.Large Herbert Screwで内固定した大腿骨顆部冠状骨折の2例.骨折 2010;32(3):622-626.

阿部義裕、高木信博、小松芳之ほか.大腿骨顆部骨折(coronal fracture)に対するcannulated Herbert bone screwの使用経験.東北整災外紀 1997;41(1):5-8.

小林 誠、渡部欣忍、松下 隆.大腿骨顆部Hoffa骨折に対してプレート骨接合術を行った2例.骨折 2009;31(2):341-343.

生田拓也、坂本博史、野口和洋ほか.大腿骨単顆骨折のプレートを併用した治療.骨折 2014;36(2):359-361.

図表説明

図1

a|b
初診時単純X線像:33-B1の垂直型骨折を認める。
a:正面像、b:側面像

図2

a|b|c
初診時CT像
a:冠状断像、b:矢状断像、c:3DCT像

図3

a|b
術後単純X線像:APを用い後外側から骨片間に圧迫を加え、LPでの固定を追加した。
a:正面像、b:側面像

図4

a|b|c
最終診察時単純CT像:骨癒合を認める。
a:冠状断像、b:矢状断像、c:水平断像

図5

a|b
初診時単純X線像:33-B3の垂直型骨折を認める。
a:正面像、b:側面像

図6

a|b|c

d|e
初診時CT像
a:冠状断像、b:矢状断像、c:水平断像、d.e:3DCT像

図7

a|b
術後単純X線像:後外側にAPを設置し、関節内の中間骨片をLPで追加固定した。
a:正面像、b:側面像。

図8

a|b|c
抜釘後単純CT像:術後1年。骨癒合を認める。
a:冠状断像、b:矢状断像、c:水平断像

図9

我々の方針:垂直型骨折では必ずAPによる固定を行い、LPを追加固定する。非垂直型骨折ではLPによる固定を行う。

表1.結果

※括弧内は健側。全例で術後合併症(創傷治癒遅延、感染、変形癒合、疼痛残存、深部静脈血栓症)を認めず、骨癒合を得た。