Hand用LCPによる内固定とtensionbandwiringを組み合わせた新しい内固定
Hand用locking plateとtension band wiringを組み合わせた観血的整復固定術を行った膝蓋骨下極骨折の1症例:骨折治療学会雑誌掲載論文原文
増井文昭、斎藤雅人、伊藤吉賢、白旗敏克
要旨
Hand用locking plate(以下、LP)とtension band wiring(以下、TBW)を組み合わせた観血的整復固定術を行った膝蓋骨下極骨折の1例を報告する。症例は61歳、男性で転倒により受傷し、当科を紹介受診した。単純X線写真/CTで膝蓋骨下極骨折および内側膝蓋大腿靭帯裂離骨折を認めた。膝蓋骨下極骨折は粉砕していたためHand用LPとTBWを組み合わせた固定、内側膝蓋大腿靭帯裂離骨折にはsuture anchorを用いた固定を施行した。術後2日目より可動域訓練、ニーブレース装着の上で全荷重歩行訓練を開始し、術後3か月で骨癒合が得られ、膝関節可動域は0/145度と経過良好である。本術式は固定方法に難渋する膝蓋骨下極骨折に対しても良好な固定が得られ、有用な術式と考えられた。
はじめに
著者らは膝蓋骨下極骨折および内側膝蓋大腿靭帯裂離骨折の1例を経験した。早期リハビリと強固な固定を得るためにHand用LPによる内固定とTBWを組み合わせた新しい内固定方法を考案した。今回、良好な術後成績が得られたので、手術方法、術後成績に若干の文献的考察を加えて報告する。
症例提示
61歳、男性
転倒により受傷し、当科を紹介受診した。単純X線写真で膝蓋骨下極骨折およびCTでは下極骨折は粉砕状で内側膝蓋大腿靭帯裂離骨折も合併していた(図1、2)。膝蓋骨下極骨折に対してHand用LPとTBWを組み合わせた固定、内側膝蓋大腿靭帯裂離骨折にはsuture anchorを用いた固定を施行した。術後2日目より可動域訓練、ニーブレース装着の上で全荷重歩行訓練を開始し、術後3か月で骨癒合が得られ、膝関節可動域は0/145度と経過良好である(図3)。
手術手順
- 膝蓋骨中央、下方凸の弧状皮切で展開
- 膝蓋骨・骨折形状に合わせてprebending
- 膝蓋腱を損傷しないようにprebendingしたLP(シンセス社製VAロッキングストレートプレート2.0mm、12穴)を膝蓋腱の深層で直接骨に接するように設置
- LP両端に糸をかけ位置を微調整(図4)
- LPの内外側スクリューホールより2.0㎜KWを挿入して膝蓋骨下極骨片と膝蓋骨近位骨片を仮固定(図5)
- LPスクリューホールから小骨片をKWで仮固定
- LPスクリューホールから挿入したKWを利用して、プラスチック製縫合糸(以下、5号ファイバーワイヤー:Arthrex Japan)にてTBWを施行(図6)
- LPの内外側近位のスクリューホールにバックアウト予防のためにロッキングスクリューを挿入(図7)
- 膝蓋骨内側にsuture anchor(mini-コークスクリューFT2.7mm/7mm、コークスクリューFT3.5mm/10mm:Arthrex Japan)を挿入し、内側膝蓋大腿靭帯裂離骨片を固定
考察
膝蓋骨骨折に対する内固定はKWと軟鋼線によるTBW、金属や生体吸収性中空screw固定、ファイバーワイヤー固定などの報告がある1,2)。TBWの術後合併症として軟鋼線の逸脱や皮下突出による刺激痛、ろう孔形成、感染、軟鋼線の折損などが挙げられる2)。膝蓋骨骨折の中でも膝蓋骨下極骨折や膝蓋骨粉砕骨折は固定方法に難渋する骨折型である。膝蓋骨下極骨折は軟鋼線のみで遠位の小骨片の十分な固定性を得るのは困難なことがあり、特に粉砕している場合や骨粗鬆症が強い際は軟鋼線が遠位骨片を穿破することがある。固定方法としては単純なTBWのほかにscrew固定、cerclage wiring、circumferential wiring、cannulated screwを用いたTBW、suture anchorによる固定など種々の術式が報告されている3,4,5)。TBW/cerclage wiring/ circumferential wiringは整復不良/軟鋼線の折損/偽関節/変形癒合、screw固定は小骨片の固定が困難などの問題がある3,4,5)。一方、ひまわり法は強固な初期固定が得られる優れた術式であるが、専用の器具が必要でピン自体も高価、ピン径が2mmの1種類のため小骨片に刺入しにくいなどの問題がある1,6,7)。
今回、我々が使用したHand用LPは安価(4~5万円)で、膝蓋骨の形状に合わせて容易にbendingができ、スクリューホールが多いため小骨片をスクリューで固定することが可能である。さらにスクリューホールから挿入したKWを用いてTBWを行うことでLPによる圧迫力も加わり、膝蓋骨下極裂離骨折に対しても強固な固定が可能である。短所としてはlow profileによる折損と刺激症状の問題が挙げられ、膝蓋骨下極裂離骨片の固定に際して膝蓋腱損傷、LP折損および膝蓋腱刺激症状を回避するためLPを膝蓋腱の深層で直接骨に接するように設置するなどの工夫が必要である。一方、膝蓋骨下極裂離骨片が薄く、小さいため骨片をLPで十分に固定できない際は5号ファイバーワイヤーを膝蓋腱にかけたうえでTBWを行うなどの工夫が必要と考える。膝蓋腱の縫合方法については膝蓋骨低位のリスクを回避するため、膝蓋腱実質部損傷がない際はKirchmayer法、実質部損傷を認める際は固定性を重視してKrackow法で縫合することが好ましいと思われる。
本術式は膝蓋骨粉砕骨折に対してもロッキングスクリュー/KW/ファイバーワイヤーを併用することで応用が可能と考えられ、今後、症例を増やしていく予定である。
参考文献
- 奥田和弘
肥満患者の膝蓋骨骨折に対するひまわり変法を施行した1例
骨折2018; 40: 865-866 - 遠藤伸一郎、高田直也、向藤原由花ほか
生体吸収性中空スクリューとFiberwireを用いた膝蓋骨骨折の手術的治療
骨折2018; 40: 871-874 - 藤原裕一郎、中尾浩志, 土屋淳之
膝蓋骨骨折に対するポリエチレン糸を併用した内固定の小経験
骨折2018; 40: 875-879 - 生田拓也、阿南敦子、 細山嗣晃
膝蓋骨粉砕骨折に対するcannulated screwを用いた tension band wiringにcircumferential wiringを併用した治療成績
骨折2017; 39:162-165 - 生田拓也、久賀太、坂本博史ほか
膝蓋骨骨折に対するcannulated screwを用いた tension band wiringによる治療成績
骨折2013; 35: 150-154 - 冨田 文久
AO分類typeCの膝蓋骨骨折に対するtension band wiring法の臨床成績と使用したワイヤーの挙動
骨折2013; 35: 146-149 - 圓尾明弘、宮秀俊、田中和具
膝蓋骨粉砕骨折に対する観血的治療一ひまわり法一
整・災害2003;46:1095-1100
図表説明
図1 CT
膝蓋骨下極粉砕骨折を認める
図2 CT
内側膝蓋大腿靭帯裂離骨折を認める
図3 術後3か月時の単純レントゲン写真
骨癒合が得られている
図4 LPの位置を微調整
膝蓋骨下極骨片(左側)の遠位に設置したLP両端に糸をかけて位置を微調整する(左:遠位、右:近位)
図5 LPの固定
LPの内外側スクリューホールより膝蓋骨下極骨片(左側)から膝蓋骨近位骨片(右側)に2.0㎜KWを挿入する(左:遠位、右:近位)
図6 Tension band wiring
膝蓋腱深層に5号ファイバーワイヤーを通し、LPスクリューホールから挿入したKWを用いてTBWを行う(左:遠位、右:近位)
図7 小骨片の固定
TBW後にLPスクリューホールからロッキングスクリューで挿入固定する(左:近位、右:遠位)