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大腿骨近位部転移性骨腫瘍に施行した髄内釘の折損例に対して、近位部筋付着部骨組織を一塊として温存したロングステム人工骨頭置換術を行った一例

大腿骨近位部転移性骨腫瘍に施行した髄内釘の折損例に対して、近位部筋付着部骨組織を一塊として温存したロングステム人工骨頭置換術を行った一例
骨折治療学会雑誌掲載論文原文

増井文昭、阿部哲士*、佐藤健二*、斎藤雅人、伊藤吉賢、浅沼和生
千葉西総合病院整形外科・関節外科センター、*帝京大学整形外科

要旨

大腿骨近位部転移性骨腫瘍に施行した髄内釘の折損例に対して、中殿筋・外側広筋付着部骨組織を温存したロングステム人工骨頭置換術を行った。転子部を含めた中殿筋・外側広筋付着部骨組織を一塊として温存したロングステム人工骨頭置換術は術後機能に優れ、長期間の安定した術後成績が期待されるため、予後良好な活動性の高い若年患者の大腿骨近位部転移性骨腫瘍に対して有用と思われた。大腿骨転移性骨腫瘍に対して中空型髄内釘を使用する際は中長期的に折損のリスクを念頭にすべきである。

はじめに

近年、がん治療の進歩により骨転移を有する患者でも長期生存が可能となってきている。特に大腿骨近位部転移性骨腫瘍は患肢機能が低下するため、QOL上問題となることが多く、手術方法の選択で難渋することがある。今回、我々は大腿骨近位部転移性骨腫瘍に施行した髄内釘の折損例に対して、中殿筋・外側広筋付着部骨組織を温存したロングステム人工骨頭置換術を行ったので報告する。

症例

47歳 女性

既往歴

右乳癌術後、糖尿病、慢性腎不全(透析中)

現病歴

右大腿骨近位骨幹部に乳癌の単発の転移性骨腫瘍(図1)を認め、放射線療法(40Gy)を施行、徐々に痛みが出現してきたため拡大掻爬術、抗癌剤混入セメント充填、髄内釘挿入術(図2)を施行した。術後2年9か月ごろより右大腿部痛が出現し、その後、疼痛が増強し歩行困難となったため再診した。単純X線で再発所見はなかったが、セメント充填部の骨硬化、病的骨折、髄内釘近位部の折損(図3)、放射線療法および抗癌剤混入セメント充填などによる骨壊死(図4)を認めたため手術を施行した。術式として髄内釘入れ替え・プレート固定、腫瘍用人工骨頭置換術、転子部骨組織温存人工骨頭置換術が挙げられた。髄内釘入れ替え・プレート固定は放射線後の骨壊死を認めるため単独では骨癒合不全による再折損の危険が高い。骨移植や血管併付き骨移植が必要となるが骨壊死が広範囲のため、骨移植は骨癒合に不安があり、血管併付き骨移植は透析を施行しているため手技が難しく長時間の手術となる。一方、腫瘍用人工骨頭置換術は中殿筋機能低下による跛行や易脱臼性などの問題があるため、転子部骨組織温存、プレート・ワイヤリング固定、ロングステム人工骨頭置換術による再建を選択した。後方アプローチで大きく展開し、骨折部を開窓した所、骨硬化が著しく、血流は極めて不良であった。髄内釘は骨組織に強固に固着し抜去が困難なため、ノミにて周囲骨組織を除去した上で抜去した。その際、転子部に垂直方向に不全骨折を認めた。転子部骨組織は中殿筋・外側広筋付着部を含めて温存してロングステム人工骨頭(中島メデイカル社製Delta Lock)を挿入し、筋緊張および前捻が良好な位置で末梢スクリュー固定を施行した。さらに転子部骨組織に対してはプレート・ワイヤリング固定を追加した。なお、骨折部は放射線療法・抗癌剤混入セメント充填による骨壊死が広範囲のため骨移植術は施行しなかった(出血量:796ml、手術時間:4時間10分)。また、術中採取した病理組織では局所再発は認めなかった。

術後経過

1週より全荷重で歩行訓練を開始した。術後2ヶ月時、飲酒中に後方脱臼し、全身麻酔下に徒手整復を行った。整復時の所見では明らかなインピンジメントはなく、屈曲90度、内旋70度まで脱臼は認めなかった。また、牽引により関節裂隙は2cmほど開大したが、覚醒後は認めなかった。術後2年の現在、大腿骨内側の骨折部は骨癒合し、Trendelenburg徴候は認めない。杖なし歩行が可能で、ISOLS functional score(Musculoskeletal tumor score)1)は96.7%と経過良好である(図5)。

考察

大腿骨骨転移の手術は予後に応じて掻爬術、辺縁切除術、広範切除術などが行われる。再建材料としては大腿骨転子部より近位では人工骨頭、転子下から骨幹部では腫瘍用人工骨頭、プレート・髄内釘による内固定が行われることが多い2.3.4)。転子下から骨幹部の転移巣に掻爬術や切除術を施行した際、同部に屈曲・伸展、回旋、せん断などの非常に強いストレスが加わるため、長期的には内固定材の折損の危険性がある5)。本症例は初回手術で掻爬術、中空型髄内釘挿入、骨セメント充填術を行ったが、術後2年9か月で掻爬部での骨折に伴い、近位スクリュー部で髄内釘折損をきたした。再手術では骨接合術は再度、内固定材折損のリスクがあるため、solidで強度が強く、人工股関節再置換術での長期の安定した成績が得られているロングステム人工骨頭による再建を行った。近位組織は中殿筋・外側広筋と小転子から大転子までの骨組織を極力温存し、ロングステム人工骨頭とプレート・ケーブルによる再建を行い、良好な術後成績が得られた。長期予後が期待される、若年の活動性が高い患者には中空型髄内釘は強度が弱く、将来的に折損の可能性がある。本来であれはsolid typeの髄内釘が好ましいが、現在、日本で使用可能な機種はなく、本症例のように中空型髄内釘の使用が余儀なくされる。今回、我々が行った術式は骨頭を切除する問題はあるものの長期間の安定した術後成績が期待されることから、予後が良い若年患者の大腿骨転子下骨転移に対する初回手術術式として有用と思われた。

大腿骨近位部転移性骨腫瘍は切除縁、インプラントの選択、軟部再建、補助療法等の選択にしばしば苦慮することがある。Thambapillaryらは668例の骨軟部腫瘍に対して大腿骨近位部置換術を施行した症例を調査し、Musculoskeletal tumor score は70.8%、安定性と脱臼予防には外転機構の再建が重要でAllograftとの併用が有用であると報告している6)。一方、本邦ではAllograftが容易に使えない、股関節周囲筋を切除した場合の機能損失が大きいなどの理由から、中殿筋・外側広筋付着部骨組織に浸潤を認めない際は大転子を含めて一塊として温存することで良好な術後機能が得られると報告されている7.8)。しかし、中殿筋・外側広筋付着部骨組織は腫瘍用人工骨頭に縫着することにより内方化されるため縫縮術が必要となり、レバーアームが減少するために外転筋力が低下する問題点は十分に解決されていない。大腿骨近位部転移性骨腫瘍の外科的治療は切除することに主眼が置かれがちであるが、長期予後が期待される際は機能を重視して転子部を含めて中殿筋・外側広筋付着部骨組織を可能な限り温存することが重要と考える。転子部を含めた中殿筋・外側広筋付着部骨組織が温存できれば、生理的なレバーアーム、外転機構の機能的再建が可能となり、長期に安定した術後機能が得られる。長期予後が期待され、中殿筋・外側広筋付着部骨組織に転移を認めない症例に対しては、インプラント折損リスクの軽減、術後機能の向上の観点から本術式も選択肢の一つと考えられた。

今回、使用したDelta Lock(中島メデイカル社製)は末梢のスクリューによる初期固定とブラスト加工部位のbone ongrowthによる固定をコンセプトとした人工骨頭で、人工股関節再置換術に準じて中殿筋・外側広筋付着部骨組織と遠位骨組織に挿入後にドリルで仮整復し、脚長や前捻の補正を行うことで人工骨頭の良好な設置と生理的に近い外転機構の再建が可能であった。一方、今後の課題として、末梢のスクリューと遠位ブラスト加工部位に固定性が依存、オフセットのバリエーションがない、中殿筋・外側広筋付着部骨組織に転移を認める症例では解剖学的位置に縫着するために術中処理骨やスペーサー(骨セメントでモデリング等)の併用を検討する必要があると考えられた。

結語

  • 予後良好な活動性の高い若年患者の大腿骨近位部転移性骨腫瘍に対して掻爬術や切除術を施行後に中空型髄内釘で再建した際は中長期的に折損に留意する必要がある。
  • 中殿筋・外側広筋付着部骨組織を一塊として温存したロングステム人工骨頭置換術は術後機能に優れ、長期間の安定した術後成績が期待される。

参考文献

    1. Enneking WF, Dunham W, Gebhardt MC, Malawar M, Pritchard DJ.:A system for the functional evaluation of reconstructive procedures after surgical treatment of tumors of the musculoskeletal system.Clin. Orthop., 1993;286:241-246.
    2. 熊谷 洋、西野 衆文、鎌田 浩史ほか:大腿骨近位部転移性骨腫瘍に対する腫瘍用人工骨頭置換術の手術手技と成績. 別冊整形外科2014;65:202-206.
    3. 佐々木 優、北田 真平、円山 茂樹ほか:髄内釘を用いて治療した大腿骨転子下病的骨折の検討. 中部日本整形外科災害外科学会雑誌2013;56:1419-1420.
    4. 王谷 英達、中 紀文、田中 太晶ほか:大腿骨近位部転移性骨腫瘍に対する腫瘍用人工骨頭置換術の治療成績.中部日本整形外科災害外科学会雑誌2008;51:1079-1080. 4
    5. 安田 廣生、横山 庫一郎、清水 敦ほか:大腿骨転移性骨腫瘍に対して使用した再建材料の折損をきたした一例. 整形外科と災害外科2012;61:179-185.
    6. Sivaharan T, Rozalia D, Kostantinos GM, Evangelos MF., et al.Implant Longevity, Complication and Functional Outcome Following Proximal Femoral Arthroplasty for Musculoskeletal Tumors A Systematic Review
      The Journal of Arthroplasty 2013;28:1381-1385.
    7. 伴孝介、石井庄次、増田敏光ほか:大腿骨近位部転移性腫瘍に近位大腿骨置換術を施行した8例の治療経験. Hip joint 2013;39:1162-1166.
    8. 米村憲輔、西田公明、薬師寺俊剛ほか:大腿骨近位部転移性骨腫瘍における術式別検討. 整形外科と災害外科1999;48: 304-307.

図表説明

図1:初回手術前レントゲン像
大腿骨転子下に骨破壊像を認める。

図2:初回手術後レントゲン像
拡大掻爬後に抗癌剤混入セメント充填、髄内釘挿入術を施行している。

図3:髄内釘折損時レントゲン像
大腿骨転子下から末梢に骨折を認め、髄内釘は近位末梢側スクリュー下端部で折損している。

図4:髄内釘折損時CT像
骨折部の骨皮質は肥厚し、著しい骨硬化を認め、骨壊死が疑われる。

図5:中殿筋・外側広筋付着部骨組織を温存した人工骨頭置換術後のレントゲン像(術後2年時)
中殿筋・外側広筋付着部骨組織を一塊として温存した人工骨頭置換術が施行されている。中殿筋・外側広筋付着部骨組織はプレート・ワイヤーにより骨幹部末梢と固定されている。