大腿骨転子部骨折(AO分類31-A3)に外側壁骨折が合併した症例に対する治療
大腿骨転子部骨折(AO分類31-A3)に外側壁骨折が合併した症例に対する治療
~γtype femoral nailとtension band plating~:骨折治療学会雑誌掲載論文原文
増井文昭、齊藤雅人、伊藤吉賢、白旗敏克
要旨
大腿骨転子部骨折(AO分類31-A3)に外側壁骨折が合併した症例は剪断・伸張・回旋負荷による不安定性が強いため、術後合併症の頻度が高く治療に難渋する。骨折部に加わる負荷を十分に検討したうえで適切な内固定材を選択することが重要である。大腿骨転子部骨折に外側壁骨折を合併した不安定性が強い症例に対するγtype femoral nailとplateを併用した術式は比較的簡便で良好な術後成績が得られたことから有用な術式と思われた。Plateの設置は伸張・剪断力に対して十分なtension band/buttress効果が得られる位置に設置することが重要である。
はじめに
AO分類31-A3に外側壁骨折が合併した症例は剪断・伸張・回旋負荷による不安定性が強いため、偽関節、再転位、変形癒合などの合併症の頻度が高い。今回、我々は合併症の軽減と早期荷重歩行の目的でγtype femoral nailにlocking compression plate(以下、LCP)を併用した術式を施行し、治療成績について報告する。
対象
平成28年より当科で治療したAO分類31-A3に外側壁骨折が合併した12例である。性別は男性2例、女性10例、受傷時年齢74~89歳(平均年齢82.3歳)である。内訳は31-A31 2例、31-A32 2例、31-A33 8例であった。これらの症例について手術時間、出血量、偽関節、骨癒合、テレスコープ量について検討を行った。
外側壁固定手術方法
- Guide wireを大転子頂部から挿入し、reamingを行った後にlag screw/blade刺入部を中心に近位・遠位を展開する。
- 近位と遠位骨片の骨性コンタクトを確認しながら、γtype femoral nailを挿入し、固定する。
- Lag screw/Bladeの位置、外側壁の骨折状態を確認しながらLCP (Reconstrucion LCP)を大腿骨外側の伸張/せん断力に対して十分なtension band/buttress効果が得られる位置に設置する(図1)
- LCPの近位および遠位にキルシュナー鋼線を挿入し、外側壁骨片および大腿骨遠位骨片を仮固定する(図2)。
- LCPの大腿骨遠位骨片の近位側に骨把持鉗子(ローマン型骨把持鉗子)をかける(図3)。
- 外側壁をlocking screw (骨皮質の菲薄化がなければ1本、菲薄化が強い際は2本)で固定する。
- 骨把持鉗子(ローマン型骨把持鉗子)でLCPを圧迫すると外側壁骨片が内側へ整復され、骨片間に圧迫が加わる(図4)。
- 大腿骨遠位骨片にlocking screw(3本)を挿入・固定する。骨把持鉗子でLCPを圧迫することでlocking screwをpolyaxial に挿入する。
症例
79歳 男性
現病歴
転倒受傷し、左大腿骨転子部骨折(AO分類31-A33に外側壁骨折合併)(図5、6)を認め、観血的整復固定術(手術時間65分、出血量180ml)を施行した。術後28日目に全荷重歩行となり、術後3か月時のレントゲンで骨癒合が得られている(図7)。
考察
大腿骨転子部骨折(AO分類31-A3)に外側壁骨折が合併した症例は剪断・伸張・回旋負荷による不安定性が強いため、術後合併症の頻度が高く治療に難渋する骨折で、内反変形・偽関節・内固定材折損、screwのテレスコープ、大腿部痛遷延などの合併症1,2,3)が問題となる。使用する内固定材として、γtype femoral nail、dynamic hip screw、dynamic condylar screwがあるが、症例に応じて強い応力に耐えられるものを選択することが重要である。荷重伝達の点ではγtype femoral nailがdynamic hip screw/dynamic condylar screwより優れているが、大転子の固定が出来ない、buttress効果が少ないなどの欠点がある。γtype femoral nailを使用する際はswing motionをおさえるために径が太く、長いものを選択した方が良い。一方、高齢者では将来的に人工膝関節置換術や大腿骨遠位端骨折の手術を行う可能性があるため、γtype femoral nailは短い方が好ましい。今回、我々が使用したSynthes社製PFNAはshortからsemi-long typeの選択が可能である。特にSemi-long typeはnail先端部と遠位横止めスクリューとの距離が長くswing motionをおさえ、nail先端部の骨折を予防し、ワンショットガイドで遠位横止めスクリューを容易に挿入できることから有用であった。一方、Dynamic hip screwは長いものを用い、compression sideを再建することで良好な固定性が得られる。大腿骨近位部の外側壁を含む骨折に対してdynamic hip screwによる内固定を施行した際、近位骨片の外方移動により、変形/偽関節/カットアウトを生じるため、逆斜型の転子下骨折または転子横断骨折と同様の不安定型骨折と評価すべきと報告されている3,4,5)。外側壁/大転子骨折を認める症例に対してはdynamic hip screwにtrochanteric stabilizing plateを併用することで良好な術後成績が報告されているが6,7)、大きく展開する必要がある、レバーアームが長く内反モーメントが大きいため、内側壁に骨折を認める症例では骨折部に不安定性が残るなどの欠点がある。一方、γtype femoral nailはレバーアームが短いため内反モーメントが小さく、central loading/intramedullary buttress効果がありdynamic hip screwより有用だが、大転子を含めた外側壁の固定が出来ない、剪断力に弱い欠点がある。いずれの内固定材を使用する際も、骨折部に加わる負荷を十分に検討したうえで適切な内固定材を選択することは言うまでもないが、内固定材を過信することなく、骨折部の骨性コンタクトを獲得することが最も重要である2,3)。 LCPの選択については外側壁骨片の骨皮質が厚い症例はlocking screwを1本、菲薄化を認める際は2本挿入できればReconstruction LCPにより十分な固定性が得られていた。一方、今回の検討には含まれていないが、外側壁骨片が粉砕している症例はReconstruction LCPではlocking screwの固定性が弱く、中殿筋の作用により外側壁骨片が上方転位を起こす可能性があるため、screw holeが多く大転子頂部にフックがかかるolecranon LCPの使用も検討したほうが良いと思われた。
今回、我々はγtype femoral nailに角度安定性のあるLCPを併用することで単純なAO分類31-A3として対応可能と考えてγtype femoral nailにLCPによる外側壁固定を併用する術式を考案・施行した結果、不安定型大腿骨転子部骨折に対するdynamic hip screwにtrochanteric stabilizing plateを併用した過去の報告(平均テレスコープ量:AOA33/9.5㎜、Evans Group4/9.57㎜)8,9)と比較しても良好な術後成績(平均テレスコープ量:5.5㎜)が得られ有用と考えられた。
我々が考案・施行したγtype femoral nailとLCPによる外側壁固定を併用した術式は伸張・剪断不安定性が強いAO分類31-A3に外側壁骨折が合併した症例に対して偽関節/再転位などのrisk が軽減でき、早期全荷重歩行が可能なことから有用な術式と考えられた。Platingを施行する際は、骨折状態、伸張・剪断方向を評価した上で、十分なtension band/buttress効果が得られる位置に設置することが重要である。
まとめ
- 不安定性が高いAO分類31-A3に外側壁骨折が合併した症例にγtype femoral nailとLCPを併用する術式は有用と思われた。
- Platingを施行する際は、骨折状態、伸張・剪断方向を評価した上で、十分なtension band/buttress効果が得られる位置に設置することが重要である。
- いずれの内固定材を使用する際も、骨折部に加わる負荷を十分に検討したうえで骨折部の骨性コンタクトを獲得することが重要である。
参考文献
- 池田昌樹、池田祐一、浜脇純一.大腿骨転子下骨折における髄内釘を用いた治療法の検討
骨折 2014; 36: 932-936. - 伴光正、松村福広、星野雄一.大腿骨転子下骨折の治療成績
骨折 2012; 34: 315-318. - 松本卓二、 麻殖生和博、峠康.大腿骨転子部骨折の外側壁における不安定性についての考察
骨折 2017; 39: 673-676. - Gotfried Y. The lateral trochanteric wall:akey
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Clin Orthop Relat Res 2004;425:82-86. - Haidukewych GJ. Intertrochanteric fractures:ten tips to irnprove results.
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The Modular Extension of the Dynamic Hip Screw (DHS) for Internal Fixation of Selected Unstable
Intertrochanteric Fractures J Orthop Trauma 1998; 12: 392-399 - 田中 博史、古市 格、山本 尚幸ほか. 不安定型大腿骨転子部骨折に対する DHS+Trochanter Stabilizing Plate 固定の有効性
整形外科と災害外科 2005;54:101-104
図表説明
図1 十分なtension band効果が得られる位置にLCPを設置する
図2 LCPをキルシュナー鋼線で仮固定する
図3 LCPと大腿骨との間にGapを認める
図4 骨把持鉗子(ローマン型骨把持鉗子)でLCPを圧迫するとGapは消失し、外側壁骨片が内側へ整復され、骨片間に圧迫力が加わる。ロッキングスクリューはpolyaxial に挿入されるため引き抜き強度は強い。
図5 初診時単純レントゲン像
AO分類31-A3骨折を認める
図6 初診時3DCT
AO分類31-A13に外側壁骨折の合併を認める
図7 術後3か月時単純レントゲン像
γtype femoral nailとtension band platingを施行し、骨癒合が得られている(Synthes社製reconstrucion LCP使用/外側壁骨片の骨皮質の菲薄化がなく、locking screw1本で固定)