専門医療センター

リード抜去について

デバイス感染とリード抜去

手術には合併症としての感染がつきものです。ペースメーカーやICD植込みも立派な手術で、感染症が存在します(デバイス感染と言います)。感染症の発生にはさまざまな要因がありますが、いつもと同じように消毒をして手術を行ったとしても一定の割合で発生します。
日本のデバイス感染について、当センター顧問デバイスアドバイザーの中島が2013、2017年の2回にわたり全国調査*をしています(日本で唯一の調査研究です)が、ペースメーカーでは2%弱、ICDなどの複雑な機器では3%を超える割合で感染が発生していることが分かりました。また感染は新規に植え込んだ場合より交換手術に多いことも判明しています。

デバイス感染は他の手術で起こる感染より厄介で、最悪は死に至る可能性を秘めています。その理由は、静脈を通して心臓内に留置したリードにあります。感染の多くはポケットが感染します。ここで増えた細菌はリードを伝わって心臓内に達すると、そこで増殖します。この状態が心内膜炎です。増えた細菌は弁を破壊し、塊で血流に乗って肺に到達して肺膿瘍の原因となります。また、増殖した細菌は血流中に乗って全身に散布されます。さらには血液中で増え始めると『敗血症』という死に直結する状態となります。

では、デバイス感染の治療法はないのでしょうか?ガイドラインに示された唯一の治療方法は『全ての機器とリードを取り去ること(全システム抜去)』です。これ以外の方法では、小康状態を得られたとしても一時的で、再び感染の兆候が現れることになります。
全システム抜去は簡単ではありません。ポケットから機器(デバイス)を取り出すのは比較的容易ですが、静脈を経由して心臓に留置されたリードは血管の壁や心臓の内部に強固に癒着しているのです。
* 1. Journal of Arrhythmia 32 (2016) 303–307, 2. Journal of Arrhythmia. 2020;00:1–4.

リード抜去

デバイス感染治療では、リード抜去がその根幹をなす治療となります。癒着したリードを血管や心臓の内面から剥離するためには多くの特殊な器具が必要です。特に古いリードやICDリードは抜去が難しいことが知られています。ほとんどの抜去では、レーザーシースと呼ばれるエキシマレーザーを用いた剥離器具が使用されます。これ以外にも多くの抜去のための特殊機器があり、これを使い分けることが重要です。リード抜去は非常に危険の伴う手術で、最悪は死に至ります。そこで、リード抜去は認定を受けた施設で認定医が行います。当院の抜去手術は、ハイブリッド手術室という特殊な手術室で心臓血管外科医と循環器内科医がチームで行います。全国的にもこの手術が可能な認定施設は少なく、当院は千葉県西部では唯一の施設です。当センターでは2020年1年間で15例(35本)の抜去を行い、死亡はなく、全て完全抜去(いかなる部品等も体内に残さない)しています。最も古いリードは1997年と20年以上も前に植え込まれたもので、ICDリードは5本を抜去しました。

レーザーシース(エキシマレーザー)

シースと呼ばれる「管」の断面からレーザーを照射し、癒着部分を蒸散させて剥がします。