手術治療を要した多発痛風結節の1例
手術治療を要した多発痛風結節の1例
東日本整形災害外科学会雑誌掲載論文原文
齊藤雅人、増井文昭、尾立和彦、白旗敏克、佐藤健二*、阿部哲士*
千葉西総合病院整形外科・関節外科センター、*帝京大学整形外科
要約
痛風結節は痛風患者の20%に生じるとされるが、近年は治療法の確立により減少している。
痛風結節の治療は、薬物治療により血清尿酸値を4~5mg/dlにコントロールすることである。手術治療は、機能障害、感染、神経圧迫などを認め、保存治療に抵抗するものが適応となる。今回われわれは、生活習慣に起因した多発性の巨大痛風結節の感染合併症例に対して手術を行い、術後の厳重な生活指導と薬物治療によって、良好な成績を得ることができた。
はじめに
生活習慣に起因した多発性の巨大痛風結節に感染を合併し、手術治療を要したきわめて稀少な症例を経験した。手術後、厳重な生活指導と薬物治療を行い、関節炎・感染・結節の再発なく、良好な治療成績を得られたため報告する。
症例
66歳、男性、既往歴に特記すべきことはない。20年ほど前に高尿酸血症、痛風発作を発症し近医にて内服治療が開始された。8年ほど前から内服を自己中断していた。約5年前より四肢の関節部の腫瘤を認め、近医を受診したが手術を希望せず、経過観察とされていた。今回、全身の関節の腫脹、疼痛を主訴に当科を受診した。
まとめ
- 整復位およびTADに問題なかったが、術後7か月時に骨頭下骨折とテレスコープを認めた大腿骨頚基部骨折を経験した。
- 長方形構造物の上下・前後壁骨折、内部の脆弱化(Ward三角部CT値の著しい低下)を認める症例はWard三角部と壁損傷部へ人工骨(水酸アパタイトなど)の充填などの工夫が必要と考えられた。
生活歴
痛風発症までの約20年にわたり、毎日のように豚肉をみずから屠殺して大量に食し、ビールを3 L/日以上摂取していた。
身体所見
初診時、四肢の関節(肘関節、手関節、指節間関節、膝関節、足関節、趾節間関節)に多発する腫瘤を認めた。右足関節外果、右中指PIP関節の病変は自壊し感染を伴っていた(図1)。
画像所見
右足関節外果、右中指PIP関節ともに単純X線では腫瘤陰影と骨浸食像を認めた(図2)。CTでは腓骨外果遠位に本疾患に特徴的である、骨が結節を取り囲みひさしのように突き出るoverhanging marginを認め、距骨には円形の打ち抜き像を認めた(図3)。MRIでは、T1強調画像、T2強調画像共に低信号から中等度の信号の内部不均一な腫瘤を認めた(図4)。
検査所見
血液生化学検査で、血清尿酸値が9.8 mg/dl(基準値:3.0~7.0 mg/dl)と高値を示し、C反応性蛋白が0.60 mg/dl(基準値:~0.3 mg/dl)、クレアチニンが1.18 mg/dl(基準値:0.6~1.1 mg/dl)と軽度の炎症と腎障害を認めた。また、尿中尿酸排泄量0.74 mg/kg/時(基準値:0.48~0.51 mg/kg/時)と高値を示し、尿酸クリアランス・クレアチニンクリアランス試験(60分法)で尿酸クリアランスは9.69 ml/分、クレアチニンクリアランスは264.8 ml/分、尿酸クリアランス/クレアチニンクリアランス比は3.66 %であった。これらの所見から産生過剰型と判断した。自壊した創面からの細菌培養検査では、中指からStaphylococcus aureus、外果からEnterobacter cloacae、Klebsiella oxytocaが検出された。
手術
中指の腫瘤はMP関節に及んでおり、患肢温存は困難と考え中手骨遠位1/3の位置で切断した。外果は、腫瘤を皮膚も含めて一塊にして切除し、骨内を可及的に掻爬後、形成外科にてVeno-accompanying-artery adipofascial(VAF)flapによる軟部再建を行った(図5)。
病理所見
肉眼的に白色で脆いチョーク様の内容物を認め、簡易偏光顕微鏡下では尿酸ナトリウム結晶と思われる針状結晶を認めた(図6)。
考察
本邦における高尿酸血症の頻度は成人男性の20~25%、痛風の有病率は約1%と報告されている5)。痛風結節は、高尿酸血症の罹病期間が長く高度であるほどできやすいとされ、痛風患者の20%に発生するとの報告があるが、近年は治療法の確立により減少傾向にある4)。
高尿酸血症は血清尿酸値7.0 mg/dl以上と定義され、尿中尿酸排泄量と尿酸クリアランスによって尿酸産生過剰型、尿酸排泄低下型、混合型の3つの病型に分類され(表1)、それぞれ1割、6割、3割程度の頻度とされている8)。本症例は尿中尿酸排泄量0.74 mg/kg/時、尿酸クリアランス9.69 ml/分で、尿酸産生過剰型と考えられた。原因として遺伝性疾患(レッシュ-ナイハン症候群、ホスホリボシルピロリン酸合成酵素亢進症など)、細胞増殖の亢進・細胞破壊の亢進(悪性腫瘍、腫瘍融解症候群など)、甲状腺機能低下症、高プリン食、薬剤性などが挙げられる2,11)。本症例は遺伝性疾患に随伴する精神発達遅滞や発達障害、糖原病の合併や家族歴、悪性腫瘍の既往や随伴症状、薬剤内服歴はなく、採血上も甲状腺ホルモンの数値が正常であった。生活歴から、長年に渡るプリン体の多量摂取と薬物治療の中断によって著しい多発痛風結節を生じたものと考えた。また、産生過剰型であることから生成抑制薬を投与、厳重な生活指導と薬物治療を施行し、治療開始から1年7カ月の現在、痛風発作や尿路結石の発症は認めず、血清尿酸値6.4 mg/dlと改善傾向にある。
高尿酸血症が長期間持続すると、尿酸塩結晶が軟骨、滑膜、滑液包、腱、皮下組織などに沈着し、痛風結節を生じる6,7,10)。血清尿酸値が高く罹病期間が長いほど発生頻度が高くなり、耳介、母趾などの血流が乏しく組織液が貯留しやすい部位、機械的刺激を受けやすい部位に多く発生する6,7)。鑑別疾患としては、びまん型腱滑膜巨細胞腫(色素性絨毛性滑膜炎)などの腫瘍性疾患、関節リウマチなどの炎症性疾患、腫瘍性石灰沈着症などの代謝性疾患など多発性に軟部組織に石灰化をきたす疾患が挙げられる3)(表2)。
画像所見ではoverhanging margin徴候が特徴的で、関節内の尿酸塩結晶による炎症を繰り返し、骨内へ浸食することで骨膜が刺激され、骨が痛風結節を取り囲むように突き出ることにより生じるとされている。また、変形性関節症とは異なり骨軟部病変があるにもかかわらず、関節裂隙が保たれている場合が多い。骨内浸食もしくは骨内痛風結節では境界明瞭な長円形または円形の打ち抜き像も特徴である6,7)。MRIでは、YuらはT2強調画像で低信号から中等度の信号の骨破壊像を示す腫瘤を認めれば痛風結節が疑われるとし12)、またChenらは関節内にT2強調画像で低信号領域があり、ガドリニウムで周囲が不均一に増強される場合は痛風結節が示唆されると報告している1)。ただし、画像所見だけでは診断にいたることは困難なことが多く、最終的には病理診断により確定診断にいたることが多い7)。
痛風結節を縮小・消退させるためには、血清尿酸値を一般痛風患者の治療目標である5~6 mg/dlより低めの4~5 mg/dlにコントロールするのが良いとされ、保存的治療に抵抗性の場合に手術が必要となる場合がある7)。手術治療は、Straubらは①機能障害を合併しているもの、②瘻孔や感染を生じているもの、③疼痛があるもの、④神経を圧迫しているもの、⑤整容上問題があるもの、⑥尿酸プールの減少が全身的な尿酸代謝の改善に好影響を与えると思われるものが適応と報告している9)。本症例は感染の併発、疼痛、関節拘縮を生じていたことから手術を施行した。術後は厳重な生活指導と薬物治療を行い、術後1年7カ月の現在、関節炎・感染・結節の再発もなく経過良好である。
図表説明
(図1)来院時身体所見
a:右足関節 b:右手
右足関節外果と右中指PIP関節に生じた腫瘤。
a|b
(図2)単純X線
a:右足関節正面像 b:右手正面像
a|b
(図3)足関節単純CT:前額断像
(図4)足関節単純MRI
a:T1強調画像 b:T2強調画像
a|b
図5)右足関節外果の術後写真
(図6)病理写真
偏光顕微鏡 HE染色 ×200
(表1)尿中尿酸排泄量と尿酸クリアランスによる病型分類
(表2)痛風結節の鑑別疾患
参考文献
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