循環器内科

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症とは

僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)は心臓弁膜症の一種で、心臓の弁のひとつである僧房弁が正常に閉じなくなる病気です。心臓弁は開閉を繰り返すことで、それぞれの心臓内の部屋が血液を受け取り、送り出す手助けをしています。僧帽弁閉鎖不全症では、僧帽弁が閉じきらない(接合不全)ことで血液が逆流し、左心室から左心房に戻ってしまいます。そのため、心臓から血液を十分に送り出すことが出来なくなります。

原因について

粘液腫様変性(僧帽弁逸脱)

加齢をはじめとする何らかの理由で弁の組織が弱くなり、変性して厚くなったり伸びたりすることがあります。これにより弁が左心房側に逸脱(はみ出す)するとうまく閉じなくなります。

リウマチ熱の後遺症

リウマチ熱による炎症により弁組織が線維化と呼ばれる変性を起こすことで、弁がきれいに閉じなくなる場合があります。

感染性心内膜炎

細菌が心臓の組織に感染して炎症を起こし、弁組織や弁尖とつながる腱索と呼ばれるヒモ状の組織が破壊されることがあります。

先天性疾患

バーロー症候群やマルファン症候群など先天的に弁の形態に異常がある疾患をお持ちの場合

心筋症

何らかの原因で心臓の筋肉(心筋)にダメージがおよぶ心筋症が左心室で起こった場合、二次的に弁尖がうまく閉じられなくなる場合があります。

虚血性心疾患(心筋梗塞)

狭心症や心筋梗塞により心臓の筋肉にダメージが発生すると、弁組織に直接損傷がおよぶことがあるほか、左心室の拡大や機能低下によって二次的に閉鎖が不完全になる場合があります。

症状について

軽度~中等度の方は無症状である場合が多いと言われています。重症な自覚症状が出現した後の経過は極めて悪く、放置した場合の余命は3年~5年という報告もあります。

重症度毎の症状と治療方針の目安
重症度 症状 一般的な治療方針
軽度 ほぼ自覚症状なし 原則として経過観察。生活習慣の改善指導を行います。
中等度 軽い息切れや動悸などを感じる場合あり 症状や心臓の状態に合わせて薬物療法を検討する場合もあります。
重度 息切れ、動悸、咳、呼吸困難感、胸の痛み、倦怠感など顕著な症状。より進行すると失神する場合も カテーテルによるMitraClipや外科手術など、積極的な治療が推奨されます。

検査・診断について

心エコー検査(経胸壁・経食道)

弁の形態や逆流の程度、逸脱の有無などを調べます。一番重要な検査といえます。

その他の検査

  • 胸部レントゲン検査
  • 心電図検査
  • 心臓CT検査など

診断はこれらの検査結果を総合的に検討、判断し行われます。経過観察中の方は定期的に検査を受け、現在の進行度を適切に把握することが大切です。

治療について

一般的に軽度~中等度の患者様には必要に応じて薬物療法を実施します。重度の患者様に対してはカテーテル治療もしくは外科手術による積極的な治療が推奨されます。

薬物療法(経過観察)

心臓の負担を軽減するお薬や症状を和らげるためのお薬を用います。お薬での治療は症状を緩和し、進行を抑えるために行うもので、根本的な治療とはならない点に注意が必要です。また定期的に検査を受け、病状が進行していないかチェックを受けていただくことが大切です。

カテーテル治療(経皮的治療)

カテーテルといわれる細い管を使用して、足の付け根などから心臓にアプローチするTEER(経皮的僧帽弁接合不全修復術)と呼ばれる治療が行われます。実際の手技としては、折りたたまれた小さなクリップをカテーテルにより僧房弁の位置まで運び、留置します。逆流を起こしている箇所の弁を挟んで接合することで隙間が狭くなり逆流を軽減します。胸を開かず、人工心肺も利用しないため、体への負担が軽く(低侵襲)、入院期間を短縮できることも特長といえます。

現在、国内に使用されているデバイスは「マイトラクリップ(MitraClip)」と「PASCAL(パスカル)」の2つがあります。

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MitraClip ® G4システム

TEER(経皮的僧帽弁接合不全修復術)についてみる

外科治療

ご自身の弁を修復する「弁形成術(MVP)」と人工の弁に置き換える「弁置換術(MVR)」があります。第一選択は弁形成術となりますが、弁組織や心筋のダメージが高度な場合には弁置換術を行うこともあります。昨今では胸の骨を切らない低侵襲心臓手術(MICS)が行われており、さらにはロボット支援手術(ダビンチ心臓手術)も実施されています。これらの手術は従来の手術に比べて飛躍的に体への負担が少なく、当院でも適応のある患者様に対して積極的に実施しています。

ロボット心臓手術の様子

ロボット心臓手術についてみる

生活における注意点について

僧帽弁閉鎖不全症と診断を受けた方の生活上の注意

心臓への負担をおさえるために塩分制限が必要です。6g/日が目安となります。飲酒は適量を心がけ、喫煙されている方は禁煙しましょう。十分な睡眠をとり、バランスの良い食事を心がけることも大切です。お薬を出されている方は医師の指示通りに服用しましょう。お薬が多めで、飲み忘れが怖い方は薬剤の一包化をご検討いただいても良いと思います。

また、医師の指示に従い定期的に検査を受け、弁や心臓の状態を確認することはとても重要です。

MitraClip治療や外科手術を受けた方の生活上の注意

抗凝固薬・抗血小板薬(血液サラサラの薬)を服用されている方は出血しやすく止まりにくい傾向にあります。ケガをすることがないように十分に気を付けていただくと共に、出血が止まらない場合は医療機関に相談しましょう。歯科や眼科を受診する際はご自身がこれらのお薬を服用していることを伝えましょう。

適切な運動は予後の改善に繋がると言われていますが、どの程度の運動が適切であるかは患者様一人ひとりの状態によって異なります。心臓リハビリテーションでは、医師や理学療法士の指導のもと運動を行いますので、安全かつ効果的に運動が行えます。当院でも実施しておりますのでご興味があれば医師にご相談ください。

MitraClip治療や弁置換術を受けた方は細菌感染による感染性心内膜炎のリスクがあります。感染性心内膜炎はお口の中の常在菌が原因となる場合が多く、毎日の丁寧な歯磨きや定期的に歯科医院でクリーニング(歯石除去)を受け口腔内を清潔に保つことが推奨されます。また、出血を伴う歯科治療を受ける際は、血液内に細菌が侵入するリスクがあるため、予防的に抗菌薬を投与することが強く推奨されています。

医師からのメッセージ

心臓弁膜症は早期発見と適切な治療が非常に重要と言われていますが、自覚症状のないまま進行するために実際には治療が必要な状態にあるにも関わらず、放置してしまっている方も非常に多いと推定されています。

当院は心臓弁膜症治療において、カテーテル治療と外科手術の双方で高度な治療を実施しており、手術件数は合計で年間300例を超える実績を有する全国でも屈指の治療施設です。

息切れや胸の痛み、以前より疲れやすいなどの気になる症状があれば「年齢のせい」と放置することなく一度当院循環器内科(SHDセンター)にご相談ください。

副院長・循環器内科主任診療部長
SHDセンター長
桃原哲也

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患者様

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医師直通メール:chibanishi.shd@gmail.com
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TEL:047-384-8564
月~金曜日 8:30-17:00/土曜日 8:30-12:30

この記事を書いた医師

桃原 哲也(とうばる てつや)
千葉西総合病院 副院長
循環器内科主任診療部長・SHDセンター長

(画像提供:アボットメディカルジャパン合同会社)