整形外科

整形外科初期研修レジデント後記 藤井 温子

当院の研修医は2年間継続して救急外来での当直を行う。救急外来では骨折や腰痛など整形外科疾患に出会うことが非常に多い。高齢社会となった現在の日本で医療に携わるには、何科に進むにしても整形外科的知識は必須だと感じていた。そんな思いがあり、1か月という短い期間ではあるが整形外科で研修させていただくこととした。

当院整形外科で圧倒的多数を占めるのが骨折である。骨折と一言にいっても、部位、骨折のパターン、原因、年齢、ADLなどの患者背景は一人ひとり異なっており、それらを考慮したうえで、治療方針を決定していくため、同じ疾患でも症例毎に学べることはそれぞれ異なっていた。骨折のほかにも、前十字靭帯損傷や半月板損傷に対しては侵襲の少ない関節鏡を、腫瘍に関しては良性のものから悪性のものまで幅広く扱っている。

また、研修期間中に屋形船で花火観賞ツアーが企画された。花火鑑賞はもちろん、先生方のご家族とふれあう機会は稀有であり、楽しい時間を過ごせた。病院の外で交流の場を持つことは、仕事の雰囲気作りの面でも、すごく大切なことだと改めて感じた。

整形外科の先生方は、適宜短時間の講義をしてくださり、熱心に指導してくださった。疑問に思ったことを気軽に聞ける環境は、研修医としてこの上なかった。短い期間ではあったが、この1か月で学んだことを救急当直を始めとして、今後の医師人生に活かしていこうと思う。

平成24年度臨床研修医 藤井 温子

症例報告

現在、日本は高齢社会となっており、骨密度の低下や筋力の低下に起因する転倒や打撲など、些細な外傷による骨折が増加傾向にある。特に、大腿骨頸部骨折は受傷後の安静が必要となり、筋力低下によるADLの低下を招くため、早期治療、早期離床が勧められている。

研修中に経験した高齢女性の右大腿骨頸部骨折の1例を紹介する。
既往歴に高血圧のほか特記すべきものを認めない、ADL完全自立の高齢女性。段差につまずいて右側に転倒し受傷。右大腿近位外側の疼痛と右股関節の屈曲制限を認めたが歩行可能であった。徐々に疼痛増悪したため、翌日に当院救急外来を受診したがレントゲンにて明らかな骨折を認めず、歩行可能であったことから経過観察となった。

疼痛が持続するため、3週間後に再受診。レントゲン、CTにて右大腿骨頸部骨折を認め、手術目的に入院となった。

初診時股関節正面レントゲン像:
明らかな骨折所見を認めない
再診時股関節正面レントゲン像:
GardenⅡ型、PauwelsⅢ型の骨折を認める

著しい疼痛があるもレントゲンで異常を認めない場合は、骨挫傷や不全骨折(亀裂骨折、若木骨折、竹節骨折)、疲労骨折などの不顕性骨折を認めることがある。不顕性骨折は骨梁の連続性は絶たれているが、骨膜の連続性は保たれているため、レントゲンやCTで異常所見を認めないことが多く,MRI T1強調像で低輝度を呈することによって診断される。外傷後や高齢者でレントゲン上明らかな骨折がないにも関わらず疼痛が持続する場合には、不顕性骨折を疑い、数日後、受傷1週間後のレントゲン再検査や、適宜CTやMRIを施行することが必要である。不全骨折はCTで骨折が判明することもあるが、骨挫傷に関してはCTで有意な所見を認めないことが多く、MRIが最も有用である。また、レントゲンでは骨梁の修復反応により、継時的に骨硬化像を認めるようになる。 全症例にMRIを施行することは困難なことがあり、高齢者の転倒を診る時にはレントゲンでは検出されない骨折があることを念頭に置き、患者にもその旨を説明の上、適宜、レントゲン再検査することが重要である。

再診時右股関節側面レントゲン像

左大腿骨頸部骨挫傷の他症例

CT像で転子部に骨折線とMRI T1強調像で同部位に低輝度を示す骨折線を認める

一般的に、閉経後の女性は特に骨吸収が亢進し、骨密度が低下する傾向にある。本症例では入院後の大腿骨骨密度測定にて若年成人平均値比較71%と骨量減少を認め、骨吸収のマーカーである血清NTXは24.0 nmolBCE/l (骨折リスクのカットオフ:16.5mmolBCE/l)と上昇しており、骨折のリスクは高かった。

大腿骨頸部骨折の治療法はいくつかある。本症例は大腿骨頸部大転子側から小転子にかけて縦方向に骨折線を認め、GardenⅡ型と安定型であるものの、PauwelsⅢ型と剪断力が大きい骨折であった。そのため、保存加療のみで骨癒合は期待できず、手術が勧められた。術式としては、GardenⅡ型であることから、侵襲の大きい人工骨頭置換術よりも、より低侵襲な観血的整復固定術が選択された。

観血的整復固定術には、ハンソンピン、cannulated cancellous screw、compression hip screw (CHS) などの内固定材がある。前2者は複数のピンやスクリューで固定する術式で、骨頭の回旋予防と固定性を高めるために、大腿骨頸部の下方と後方の骨皮質に接するようにピンやスクリューを挿入することが重要である。プレートをスクリューで固定するCHSは大腿骨転子部骨折でよく使用される方法であり、剪断力が大きい場合にも固定性が高く、早期荷重が可能であるが、前2者に比べると侵襲が大きい。ラグスクリュー挿入の際には、カットアウト率を下げるため、Tip-Apex distanceを20mm以下となるようにすることが重要である。

本症例では年齢やADLなどの患者背景のほか、強固な固定性、剪断力を圧迫力に変換、術後の内反変形予防、術後早期荷重が可能という点からCHSを選択した。さらに、回旋予防と荷重による剪断力増強に対する固定性をあげるため、ラグスクリューの頭側にcancellous screwを追加できるつば付タイプを使用した。手術は大きな問題なく終了し、術後2日目より荷重開始。リハビリも順調に進み、歩行できている。

術後骨盤正面レントゲン像
術後股関節側面レントゲン像