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ふむふむメディカル
がん化学療法のはなし
2025.05.20
#ふむふむメディカル

目覚ましい進化を遂げる現代のがん化学療法について、
専門医が詳しく解説します。

がん化学療法とは?

がん化学療法とは、がん治療薬を用いてがん細胞の増殖を抑えたり、死滅させたりする治療法のこと。がん治療には手術、放射線治療、化学療法の三本柱がありますが、手術や放射線治療は局所的な治療であるのに対し、化学療法は全身療法であることが大きな特徴です。

化学療法の目的は大きく分けて3つあります。まずは、がんを完全に治す「根治」を目指す治療。例えば、悪性リンパ腫や白血病などの血液がんは、抗がん剤治療のみで寛解を目指すことも可能です。

2つ目に、手術や放射線治療と併用してがんの再発を防ぐ「補助療法」があります。手術や放射線と組み合わせることで、取り切れなかった微小ながんを死滅させ、がんの転移や再発などを防ぐのです。

最後は、進行がんによる症状をやわらげ、生活の質を維持する「緩和的治療」です。抗がん剤でがんの増殖を抑えて病気の進行を遅らせることで、患者様が楽に、そして長く生活できるように導きます。

昔はがん細胞と同時に正常な細胞も攻撃してしまう抗がん剤しかありませんでしたが、現在ではこうした従来の抗がん剤に加えて、がん細胞特有の分子を標的にして攻撃する「分子標的薬」や、免疫自体の働きを強化する「免疫チェックポイント阻害薬」などが登場し、治療の選択肢も広がってきました(2ページの表)。

分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬といった新しいがん治療薬との併用により、奏効率(治療が効いてがんが小さくなる割合)も高くなってきました。がんの種類によっては生きられる期間も5倍以上に延びています。

がん治療薬とレジメン

抗がん剤はがんに対する有効な治療手段ですが、吐き気や食欲不振、脱毛、白血球の減少による感染リスクの増加などの副作用が現れることもあります。そのため、化学療法は副作用対策も含めた総合的な視点で考えることが重要です。その一環として用いられるのが「レジメン」と呼ばれる治療計画書。このレジメンには、科学的根拠に基づいて薬剤の種類や投与量、投与日数、休薬期間、制吐薬などの支持療法を含む手順が定められており、400以上ある療法の中からがんの種類、病状や体力、生活スタイルなどに合わせて適切な療法を選択していきます。

抗がん剤治療は「激しい副作用との闘い」というイメージがあるかもしれませんが、近年では副作用を抑える支持療法も進歩し、制吐剤や白血球を増やす注射なども充実してきました。特に吐き気に対する薬の進歩は目覚ましく、「治療をしたのに気持ち悪くならない」と、驚かれる患者様も少なくありません。副作用をコントロールできるようになったことで、有効な治療を継続できるようになりました。

治療は外来が中心に

かつては抗がん剤を使った化学療法も入院が必要でしたが、技術進歩によって現在は外来で治療できるケースがほとんどです。仕事や趣味など、いつもの生活を続けながら治療を受けられるようになってきたのです。

当院では、外来化学療法センターをリニューアルし、安全で快適な環境のもと、より安心してがん治療を受けられる体制を整えています。センターには医師、看護師、薬剤師など、がん医療を行う患者様のサポートを専門に行うスタッフが常駐し、具体的な治療のサポートだけでなく、「抗がん剤の副作用は?」「治療の効果は?」「普段の生活におけるセルフケアは?」など、患者様一人ひとりの悩みに寄り添いながら情報を共有し、チームで答えを出しています。

がんと診断されると、多くの方がショックを受けるはず。突然の告知に、どう受け止めればよいのかわからないこともあるでしょう。そんなときは、一人で抱え込まず、私たちを頼ってください。患者様が安心して治療に向き合えるよう、説明を尽くし、お話を伺い、最適な提案をしてまいります。気になることがあれば、どんなことでもお気軽にご相談ください。 

次の項目では化学療法センターチームで活躍するスタッフの声をお届けします。

がん化学療法を支えるチームの力

化学療法センターで活躍する医療チームに当院の特徴や協力体制などを
伺いました。専門スタッフ4名による座談会の模様をお届けします。

当院の特徴や体制は?

岡元

私たちは患者様が充実した日常・社会生活を送れるよう、「安心・安全・高い治療効果」をモットーに、化学療法を行ってきました。当院ではがん化学療法委員会にて、医師、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士、検査科、事務などがそれぞれの立場から意見を出し合い、知識や情報を共有しながら、最適な治療を模索しています。こうしたチーム医療の中でスタッフ全員が、常によりよい方法を探し続けていることが私たちの一番の強みですね。

また、総合病院としての強みは内科や外科、循環器科や産婦人科などとの連携。合併症のある、または妊娠中の患者様にも安心して治療を受けていただけます。

木村

そうしたチーム医療の姿勢は日々の取り組みに表れていますよね。私たち薬剤師は、レジメンの管理や抗がん剤の調製、副作用の管理や服薬指導などを担っていますが、抗がん剤の曝露対策一つとっても、主治医や看護師と何度も話し合いを重ねて最適なボトルの圧力を突き詰めています。

こうした細かい調整の積み重ねが、安全かつ成果の高い治療につながっていると感じています。

中山

治療計画を実行するための体制がきちんと整っているので、私たち看護師も自信を持って患者様に向き合うことができています。

看護師の役割は患者様が安全に治療を受けられるよう、副作用の緩和やセルフケアの支援に努めること。院内での抗がん剤の投与やモニタリングだけでなく、患者様に記録していただいている「治療日誌」を通して、在宅中の出来事や異変にも目を光らせています。食欲が落ちているようなら栄養士とともにメニューを調整し、便秘が続いているなら薬剤師に相談して解決策を考えます。治療スケジュールの管理を徹底し、来院中に患者様の貴重な時間を無駄にしないことも私たちの務めです。

秋山

安心感という点では、精神的なサポートも重要ですね。がんの診断を受けた患者様は、身体的な苦痛だけでなく、心理的・社会的な悩みも抱えています。緩和ケア認定看護師の役割は、患者様やご家族の苦痛を緩和し、その人らしく生きられるようにサポートすること。病気の受容や意思決定の支援、さらには退院後のケア施設の紹介まで、幅広く関わっていきます。患者様が治療に前向きに取り組めるよう、最初から最後まで寄り添うことが大切ですね。

アピールポイントは?

岡元

がんの告知や治療方針の説明は主治医が行いますが、患者様の気持ちが整理されてないと、正確に伝わらないこともあります。また、誤った方法でセルフケアをすると、治療継続が困難になり効果が十分に得られません。

こうした事態を防ぐために、当院では薬剤師や看護師が折を見て患者様やご家族に、どのくらい理解されているのかお話をお伺いしています。こうして何重にも確認を行うことで患者様も納得して治療を受けることができます。

木村

治療の理解をうながすとともに、副作用の情報を記した冊子やカードを提供するなど、薬や症状への理解を深めてもらう取り組みにも力を入れています。患者様のちょっとした体の変化が、化学療法の副作用を早期に発見するきっかけになることもありますから。質問や相談があれば、薬剤師が24時間365日常駐しているので、いつでも頼ってほしいですね。

中山

副作用を乗り越え、がん治療を続けていくには、「大好きなゴルフを続けたい」「旅行を楽しみたい」といった前向きな動機が必要だと私は考えています。患者様一人ひとりがその動機に気づき、受け身ではなく、自らの意思で治療に向かえるよう、これからも全力でサポートしていきいたいです。

秋山

そうですね。治療を継続していくためには環境も大事です。リニューアルした化学療法センターは、まさに理想的な治療環境になりました。ゆったりとした処置室に、個室や談話室もあり、動線も無駄がないように整備されています。患者様がリラックスして治療を受けられる環境があることも、当院のアピールポイントです。

私たちはより良い医療を提供できるよう研鑽に努めています。今後もさらに改善を図りながら、院内外の連携を強化し、より充実したがん治療を患者様に選択していただけるよう取り組んでいきたいと考えています。

腫瘍内科 部長
外来化学療法センター長
岡元 るみ子 おかもと るみこ
外来がん治療
認定薬剤師
木村 敦 きむら あつし
がん化学療法
看護認定看護師
中山 陽子 なかやま ようこ
緩和ケア
認定看護師
秋山 祐子 あきやま ゆうこ
おかもと るみこ 岡元 るみ子
腫瘍内科 部長/外来化学療法センター長
本内科学会 総合内科専門医・指導医/がん治療認定医教育委員/日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医・指導医・協議員