
乳がんとは?
乳がんとは、乳房にある乳腺にできるがんのこと。一部は小葉と呼ばれる場所にもできますが、乳管にできるものがほとんどです。女性がかかるがんの中では最も多く、日本人女性の約9人に1人が一生のうちに一度は乳がんを経験するといわれています。
罹患する年齢層は幅広く、30代から90代までと多岐にわたります。若年層での発症も決して珍しくないため、「若いから大丈夫」とは言い切れません。
そして、近年は、乳がん患者の数が増加傾向にあります。原因として食生活や生活スタイルの変化、出産年齢の高齢化などですが、いずれも仮説の域を出ません。「これを食べたから」「こんな生活をしていたから」というようなリスク要因が断定されているわけではないのです。つまり、乳がんはライフスタイルにかかわらず、誰でもかかる可能性があるがんといえます。

生存率と症状は?
乳がんは腫瘍の広がりや転移の度合いによって、0期から4期まで8段階のステージがあります。
ステージ0の段階は「非浸潤乳がん」と呼ばれ、がん細胞が乳管の内部に止まっている状態です。がん細胞が乳腺の外へと広がると「浸潤性がん」となり、広がり具合や転移に伴ってステージが上がっていきます。
ステージ0の段階で治療ができれば、10年生存率は99%以上。そのほとんどが完治します。つまり、乳がんは初期段階で発見・治療することがとても大切なのです。

セルフチェックは困難?
しかし、厄介なことに病気の初期段階では、ほとんど自覚症状がありません。何の症状もないため見過ごされてしまい、知らず知らずのうちに進行してしまうケースが多いのです。
乳がんの主な症状としては、乳房にできる「しこり」が挙げられます。他にも、乳頭からの分泌や皮膚のへこみ・ひきつれなどが見られることがありますが、受診のきっかけとなるのは、しこりに気づいた場合が大半です。
ただし、しこりが確認できる段階では、乳がんがある程度進行しているケースがほとんど。実際、初期の乳がんをセルフチェックで発見することは極めて困難です。早期発見のためには、定期的な検診を受けることが唯一の手段であると考えてください。

乳がんの5タイプ
乳がんは、がん細胞の性質により5つのタイプに分類されます。①ルミナルAタイプ、②ルミナルBタイプ、③ルミナールHER2(ハーツー)タイプ、④HER2タイプ、⑤トリプルネガティブタイプの5種類で、原則として数字が大きくなるほど悪性度が高く、リスクや治療の難しさが増します。
タイプの違いによって治療方針も大きく変わるため、病理検査で、がん細胞のホルモン受容体(女性ホルモンに反応するかどうか)やHER2タンパクの有無などを調べて判別していきます。
検診で早期発見を
乳がんは若年層でも発症する身近な病気ですが、早期に発見できれば高い確率で完治が期待できます。ただし、初期はほとんど自覚症状がないため、検診を受けることが何よりも重要。次ページでは、乳がんの検査方法や治療法、再建術について、専門医がわかりやすく詳しく解説します。
精度の高い診断と最適な治療で乳がんの根治と再発防止を。再建術や生活支援にも対応し、希望を持てる医療を実践します。
診断は3点セットで
近年、乳がんは検査機器の進歩によって早期発見率が高まってきています。乳がんの診断と治療には、さまざまな選択肢と段階がありますが、初診時には必ず、①触診、②エコー(超音波)、③マンモグラフィーの3点セットを行います。この3つは、どれも欠かせない基本的な検査。触診では、医師が直接手で乳房を確認し、しこりや皮膚の異常がないかを確認します。エコーは高周波の音波で乳腺の内部を可視化して腫瘍の有無を確認する検査。マンモグラフィーでは、X線で乳房全体を撮影し、微細な腫瘍を捉えます。マンモグラフィーは痛みから敬遠されがちですが、早期発見には欠かせません。
最新の「マンモトーム生検」
異常が見つかった場合は「針生検」を行います。局所麻酔を使って、しこりのある部分から細胞を採取し、がん細胞があるかどうかを調べます。
しこりができていれば、この針生検でがんの有無を確かめることができますが、当院ではしこりができる前の段階であっても、「マンモトーム生検」という最新の検査機器によってがんを見つけ出すことができます。これは超音波やマンモグラフィー画像を見ながら、専用の装置を使って非常に小さな異常組織を見つけ出して採取するというもの。この検査ができる施設は限られており、当院では他の医療機関からの紹介も含めて年間40〜50ほどの検査を行っています。
また、遺伝子検査ができるのも当院の強みの一つ。乳がんの約5%は遺伝によって発症するため、家系内に乳がんの人や、乳がんに関係するといわれる卵巣がんの人が多い場合は受けてみてもよいでしょう。

治療は5本柱で
乳がんの治療法は主に、①手術、②放射線療法、③抗がん剤、④ホルモン療法、⑤分子標的治療薬の5つです。これらすべての治療を行うわけではなく、例えば「ホルモン系のルミナールタイプならホルモン療法を中心に放射線を併用する」「HER2タイプならハーセプチンなどの分子標的薬を中心に手術も考える」といった具合に、がんのタイプや進行度、患者様の生活に合う組み合わせを考えていきます。
手術は基本的に、がんが小さければ部分切除(乳房温存術)、がんが大きい、あるいは広がりがある場合は乳房の全摘出を行います。近年では、術前の化学療法でがんを小さくしてから取り除けるようになったほか、放射線治療の進化によって、部分摘出+放射線治療の予後が全摘出したときと変わらないほど良好になっています。また当院では、乳房全摘出となった際に、乳房の同時再建術という選択肢も用意しています。
「仕事を続けていけるのか」「子どもに負担をかけることにはならないだろうか」など、心配事はたくさんあると思います。こうした心配事も一緒に考えていきますので、一人で抱え込まず、気軽に相談してください。チーム一丸となって、最適な治療をご提案いたします。

継続的なフォローで再発防止
治療後は再発防止のために10年にわたり経過観察を行っています。最初の2年間は3カ月に1回、それ以降は半年ごとに来院していただき、再発の兆候がないかを丁寧にチェックしていきます。
私が患者様にいつも伝えているのは、検診による早期発見が唯一の予防法であるということ。乳がんは誰でもなる可能性のある病気です。自分で判断しようとせず、35歳を過ぎたらまずは検診に足を運んでください。それが乳がん予防の第一歩です。
