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ふむふむメディカル
頭頸部腫瘍のはなし
2025.10.06
#ふむふむメディカル

頭頸部腫瘍とは?

頭頸部腫瘍とは、脳と眼を除いた「鎖骨から上」に発生する腫瘍の総称です。顔面・口腔・咽頭・喉頭・鼻腔、さらに唾液腺や甲状腺、頸部リンパ節などが含まれます。
頭頸部には「呼吸」「食事」「会話」といった生命活動や生活の質に直結する器官が集まっているため、そこに腫瘍ができると生活に大きな支障をきたす場合があります。

具体的な症状としては、声のかすれ、飲み込む際の違和感、首のしこり、のどの痛み、舌の痺れや息苦しさなどが現れます。腫瘍が大きくなると、腫れなどの見た目の変化も生じます。

腫瘍には良性と悪性がある?

腫瘍には「良性」と「悪性」があります。悪性の腫瘍はいわゆる「がん」ですので、切除や抗がん剤などのがん治療で根治や進行の抑制を行います。

腫瘍が大きくなれば、神経を圧迫して顔面麻痺を起こしたりする可能性があるため、場合によっては手術で切除します。耳下腺にできる「多形腺腫」や「ワルチン腫瘍」などが代表的な良性腫瘍です。

原因と症状は?

頭頸部腫瘍は高齢者に多いことが一つの特徴。良性腫瘍は原因不明な場合がほとんどですが、悪性腫瘍は生活習慣が関与することが知られています。特に喫煙や過度の飲酒はリスクを高め、下咽頭がんや舌がんの大きな要因になると考えられています。また、口にできる悪性腫瘍、つまり口腔がんは歯並びの悪さなどによる慢性的な刺激も影響することもあります。

腫瘍はできる部位によって症状や発見のしやすさが異なります。喉頭に腫瘍ができると、声がかすれるといった症状が初期に現れるため気づきやすいですが、下咽頭の場合は進行するまで症状が目立たないため発見が遅れがち。頸部の腫瘍を放置していたために、首の血管が傷つき、大量出血で亡くなってしまったケースもありました。

悪性腫瘍の場合は「腐乱臭」が発生することがあるので、口腔内や鼻腔のように口に近い場所の腫瘍は口臭をきっかけに見つかることもあります。

頭頸部のがんは希少?

頭頸部がんは全てのがんのうち5%以下と希少です。一口に「頭頸部がん」といっても、口腔・咽頭・喉頭・鼻腔・唾液腺・甲状腺と分野が細かく分かれるため、それぞれの部位ごとに見れば患者数はさらに少なくなります。

希少であるがゆえに、これまでは十分な臨床データが得られにくく、エビデンスに基づいた標準治療の確立が困難でした。下咽頭がんで亡くなられた俳優の勝新太郎さんは、声を守るために手術を拒んだ話はよく知られています。当時は放射線治療や化学療法の効果が限られていたため、機能温存と治療の両立が難しかったのです。

治療法を選択できる時代に

しかし、現在では、放射線や抗がん剤の治療が手術と同等の成績を収めるようになり、選択肢が増えたことで機能温存と治療が両立できるようにもなってきました。外見や声を守りつつがんと向き合える時代になってきているのです。

頭頸部の腫瘍は放っておくとQOLを著しく低下させる可能性があるため、進行する前に発見・治療することが重要です。次ページでは、頭頸部腫瘍の検査方法や治療法について、専門医がわかりやすく詳しく解説します。

年間約300件に及ぶ手術を手がける頭頸部腫瘍センターの医療チーム。
検査から術後のリハビリまで親身に寄り添い、一人ひとりに最適な医療を実現しています

検査や診断は?

「口の中のしこりが治らない」「声がかすれる」「首の腫れが続く」といった症状は、必ずしも頭頸部腫瘍が原因とは限りません。違和感を感じたら、まずはかかりつけのクリニックや歯医者で相談をしてみてください。もし、頭頸部腫瘍が疑われるようであれば、当院のような専門医のいる病院を紹介してもらいましょう。

現在、当院の頭頸部腫瘍センターでは予約制をとっており、中規模の病院からの紹介状がある方を優先に治療しています。それは、重症、あるいは緊急性が高い患者様から救いたいと考えているためです。

頭頸部腫瘍の疑いがある場合、当院ではまず、エコーで腫瘍の具合を確認しつつ、細径のファイバースコープで疑いのある部位の組織を採取(生検)するとともに、CTやMRIで腫瘍の位置や広がりを把握していきます。高性能なPETーCTも備えていますので、腫瘍や器官の情報を正確かつ迅速に検査することが可能です。

10日から2週間程度で病理の診断がつきますので、良性・悪性に関わらず、その段階で年齢や体への影響、そして患者様ご自身のご希望を踏まえた最適な治療をご提案します。

経験豊富な専門医が治療を担当

悪性の頭頸部がんの場合は、基本となるのは①手術、②放射線療法、③抗がん剤の3つです。当院の頭頸部腫瘍センターでは、年間約300件の頭頸部手術を行ってきた経験豊富な医師が執刀にあたっているほか、放射線治療では最新機器を活用して体への負担を抑えた精密な治療を行っています。また、頭頸部がんに効果のある抗がん剤の種類もこの10年で飛躍的に増え、治療の選択肢は実に多様になりました。

さらに、近年では光免疫療法といった新しい治療法も登場しています。当院には指導医資格を持つ専門医がいますので、施設認定され次第、この新しい治療も開始する予定です。

千葉西病院の強みは?

当院最大の強みは、同じチームが一貫して治療を担当していること。術後の生活を守ることを念頭に置き、最後まで責任を持って一人ひとりを診ています。

一般的に、腫瘍の切除は耳鼻科、組織の再建は形成外科と分業されることが多いのですが、縦割りの体制では情報共有の不十分さなどから治療にが生じる可能性があります。そうしたずれが、数年後にや発声の機能障害として現れ、患者様に不利益をもたらすこともあるのです。きちんと比較したうえで、選んでもらえるよう、当院ではセカンドオピニオンも強く推奨しています。

呼吸、食事、発声などに関わる体の部位を切除すれば、当然その後の生活は一変します。そうした中で生活の質を保っていくためには、術後のケアやサポート、リハビリが欠かせません。

その点、当院には専門的な知見を備えた看護師や理学療法士が多数いますので、術後の生活も安心。頭頸部外科の専門医を中心に放射線治療科・腫瘍内科・理学療法士がチーム一丸となって治療にあたっているのも当院の強みの一つです。

気になる症状があれば相談を!

頭頸部腫瘍はまれな病気ですが、早期に発見できれば治療の選択肢は広がります。気になる症状があれば、まずはかかりつけの耳鼻咽喉科や歯科を受診し、疑いがあれば当院へいらしていただければと思います。

私たちは患者様やご家族様との対話を大切にし、不安や疑問に丁寧にお答えします。治療の先にある生活の質を守ることを第一に、全力でサポートいたしますので、どうぞ安心してご相談ください。

ますぶち たつお 達夫 増
頭頸部腫瘍センター長・頭頸部外科部長
日本頭頸部外科学会 指導医/頭頸部がん専門医/頭頸部アルミノックス治療指導医/日本がん治療認定医機構 がん治療認定医/日本耳鼻咽喉科学会 専門医・専門研修指導医/The Best Doctors in Japan 2021-2025/医学博士